ビジネスでは解が存在しない問題も多く、それにどうアプローチしていくかも重要です。マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボラトリーで最近、重要視されているのが、“learning over education”。“education”が教育によって知識を与えられることよりも“learning”つまり自ら学ぶことが大事だといっているのです。

マサチューセッツ工科大学のメディアラボではインターネットが広がった後に求められる9つの基本原則を定めている。(AFLO=写真)

日本人の場合、すぐに解を求めてしまう傾向があります。これは今までのマークシート主体の大学入試の弊害だと思います。入試問題ではほとんど解が用意されていますからね。

MITのメディアラボでは“compasses over maps”という思考法も注目されています。地図より羅針盤のほうが重要だということです。

地図は私たちが持っている概念。例えば、偏差値の高い学校を出て、一流企業に就職して管理職になり、やがて役員用のクルマと秘書が用意されるようになるといった人生の地図が存在しています。でも地図は永遠のものではありません。昨日まで一流ともてはやされた企業が一晩で潰れてしまうこともあります。だからこそ、地図より人に必要なのは羅針盤だといっているのです。羅針盤とは「自分はこれをやりたい」というパッションを指します。パッションを基に自分で何かを切り拓くために必要なのが教養で、その力がビジネスを成功させる原動力になるのです。

御立▼成功するには分野の壁を越えなければならない

ビジネスパーソンがすべての領域で専門家になるのは難しい。しかし、多様な分野の専門家に質問できるレベルの教養は身に付けておくべきでしょう。例えば、近年コンピュータや医学などの専門家と一緒にビジネスのプロジェクトを進める場面が多くなっています。そのときビジネス言語だけでなく、専門家たちの使う言葉や思考のモデルを知っておかないと話が進みません。地政学の基本モデルや常識もある程度知っておかないとグローバルでのビジネスができないというのが典型的なケースです。教養は自分と専門家をつなぎ、ビジネスのプロジェクトを成功に導く重要な武器なのです。

変化のスピードが速まっており、メディアを通してだけでなく、SNSなどで専門家にアクセスすることも求められる。(AFLO=写真)

「つなぐ」という意味では、分野と分野をつなぐことも重要です。例えばコンピュータサイエンスと遺伝子工学。双方の知識や技術を用いて遺伝子治療が大きく進んだように、もともとあった学問間の壁がなくなることで、新しいイノベーションが生まれます。データと数学、生命科学、あるいはマテリアルサイエンス。こういった領域は他分野との掛け算で価値を生む例がどんどん出てきています。

また、従来型の業界知識と経営学だけを知っておけば経営に十分という時代でもなくなりました。私がかつて在籍した航空業界などはその典型です。この20年、アジア通貨危機や9.11、リーマンショック、SARS、エボラ出血熱など、航空業界を揺るがす出来事が3~4年に1回の頻度で発生しています。エアライン同士の競争とは関係のないところで、業界の利益率が大きく変動するわけです。幅広い教養を身に付け、リスク回避策やレジリエンスを考えておかなければ経営への責任を果たすことができないのです。