しかし勉強の目的は、戦いだけではありません。教養は人と人を結び付ける。英語をマスターすれば、世界各地で多くの人と会話ができます。ただし語学だけでは十分ではなく、政治や経済、歴史、文化などについて自分なりの見識を持てなければ話せません。例えば今、世界で勢いを増しているポピュリズムについて語ることができれば、「キミの国ではこんなことが起きているのか」と話題が広がり、深まっていきます。

東洋大学国際学部教授 竹中平蔵氏

日本では、知識が豊富な人が教養のある人といわれがちです。でも現代はインターネットでかなりの知識は得られるので、知識量はそれほど重要ではなくなりました。どのように考え、どうロジックを組み立てるかが、より重要になっています。

例えば安倍首相が2019年のダボス会議でデータガバナンスについてスピーチしました。18年は、ドイツのメルケル首相が、これからの経済競争は一にも二にもビッグデータの競争であると発言しました。ビッグデータをAIでどう活用していくかが国際競争の優劣を決める時代になっています。

まず、データが資産であることが理解されているのか。そしてデータは誰のものか。私がフェイスブックに書き込んだ内容は私のものだともいえるし、データを持つフェイスブックのものだともいえる。一緒に作ったものだから両者の共有物、さらには全人類の共有物ともいえる。そうやって本質を深く考えていくことが求められているのです。

御立▼教養は「人を動かす」リーダーの基礎科目

英語で“Liberal Arts”と表現される「教養」は、中世ヨーロッパの大学の科目に由来します。今でも米国のアイビーリーグ(※)の大学は「リベラルアーツ・カレッジ」と呼ばれています。学生はリベラルアーツ・カレッジを終えた後、そこから医学部や法学部など専門領域に入っていく。つまり、教養とは、リーダーが修めるべき基礎科目の総称なのです。

BCGシニア・アドバイザー 御立尚資氏

その基礎科目は中世の後半に固まり、「自由7科」として定まります。なぜ「自由」とついているのかというと、親の職業を世襲的に受け継ぐのではなく、自分で職業を選択できる「自由人」であるためにマスターしなければいけない科目であるから。

自由7科はラテン語で“trivium”(トリヴィウム)3科と“quadrivium”(クォードリヴィウム)4科で構成されます。トリヴィウムは論理学、修辞学、文法の3科目で、自分の考えをまとめて他人に伝え、人々を動かすための科目、コミュニケーションに関わる学問です。かたやクォードリヴィウムは、幾何学、代数学、天文学、(数学的な)音楽理論の4科目。言ってみれば、どのように世界をモデル化して考えを進めていくか。その手立てとなる学問を指します。

例えば、経済学は経済すべてを表記することはできないので、モデル化して考えています。政治学は権力構造が存在するときに何が起きるのかをモデル化している。社会学はグループがどのような行動をし、それはコントロールできるのかをモデル化して社会を捉えます。

※ハーバード大、イェール大など米国北東部の名門私立大学の総称。