当直で痛感した「医師としての非力さ」

1979年福井県でサラリーマン家庭に生まれた山上さんは、福井大学医学部在学中に自身が不整脈を患ったことから、心臓を診る循環器内科医を目指した。だが卒業後、内科医として当直勤務をする中で、医師としての非力さを痛感したという。

【山上】「当直していると、子供のケガや交通事故の救急要請などで救急車から受け入れを依頼されることも多かったんですが、内科医の僕には子供のケガも診ることができなくて……。あの当時は救急車を断っていたんです。でも、このままじゃダメなのかなと。僕が考えている医者というのはそういう医者じゃなかった」

当直勤務をする中で、医師としての非力さを感じた(写真提供=毎日放送)

救急救命士が受け入れの窓口対応をする

一念発起して現在の病院に移り、救命救急の世界に身を投じた。

そして、救命救急医としての経験を積みながら、患者を断らないためのシステム作りに着手したのだ。まずは過酷な職場になりがちな救命救急の最前線に3交代のシフト勤務を導入し、8時間勤務を守るように徹底した。その結果、男性医師が多いERとしては珍しく、所属する20人のうち6人が女性医師だ。「救命救急に男女の能力の差はない」という考えで、数年前から積極的に女性を採用してきた。

患者を断らないためのシステムを作り上げた(写真提供=毎日放送)

加えて、本来は消防署に勤務しているはずの救急救命士を病院で独自に雇用し、患者受け入れの窓口対応を任せた。他の病院では医師が窓口対応するのが一般的だが、医療の知識も備えている救急救命士が担当することで、医師は治療に専念できるようになったのだ。こうしたシステムは全国でも珍しいという。

救急救命士が窓口対応にあたる(写真提供=毎日放送)

さらに、救急では手に負えない重篤な患者を迅速に治療できるよう、他の科の専門医が24時間体制でバックアップしている。こうした体制づくりが功を奏し、湘南鎌倉総合病院の救命患者の受け入れ数は格段に向上した。