次々に気付きを得る

医師に処方された薬は自動的にピルパックと呼ばれる小袋に1回分ごとに仕分けられ、ロールとなって家に届きます。複数の薬を飲んでいる人の場合は、ひとつの小袋にそれらの薬がすべて入っています。仕分けはロボットによって自動的にされ、各パックにはその薬を飲む曜日と時間が印字され、患者はそれに従ってパックをロールからちぎり取って飲んだり出かけたりするだけです。

ビジネスモデルとしてはサブスクリプションで、ロールは自動的に届いていきます。小袋には華美な装飾もなく、印刷されている情報も必要最低限です。

プロジェクトを進める過程で、ヘルスケア業界にある「当たり前」の問題は、飲み忘れ以外にもあることがわかりました。

実は20~30%の患者はそもそも処方箋すら取りにいっておらず、さらには心臓発作のような体験をした患者でさえ4分の1の人は薬を取りに行っていないという状況も見えてきました。こういった人たちにとっても、まさに生活を一変させるようなサービスとなったのです(IDEOはこのケースで、ブランディングや戦略、そしてパックのデザインなどを担当。最初は奇抜さを狙っていたパックのデザインも、あくまで使いやすさを考えたものに変更し、登録作業も10ステップから3ステップに短縮するといった工夫をしました)。

1兆円のインパクトを生んだ問いかけ

2013年に立ち上がったサービスは約5年でユーザー数3000万人以上、50州中49州で展開され、100億円の売上を出すまで成長しました。そして2018年夏、約10億ドル(約1000億円)でAmazon.comに買収されました。おそらくこれからさらに拡大することになるでしょう。

野々村健一『0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力』(KADOKAWA)

参考までに、このニュースが公開されたとき、米国の薬局御三家とも言えるCVS Health、Rite Aid、Walgreens Boots Allianceの株価は8~10%下落しました。薬局セクターのマーケットキャップ(株式の時価総額)にすると約130億ドル(約1.3兆円)が一瞬にして消滅したことになります。

規制上のハードルもあるかもしれませんが、是非日本にも入ってきてほしいサービスです。

もともとは「飲み忘れ」という、ヘルスケアのシステムの上に長らく「当たり前」のこと、しょうがないこととして放置されていた問題をどうにかしようと投げかけた問いかけは、ピルパックが育つ過程のなかで、様々な問いかけに変わっていき、「飲み忘れ」以外の部分にも射程を広げていきました。

数年後に、ディスラプション(破壊的なインパクトをもたらす変革)と言うにふさわしい大きな変化を起こすだけでなく、薬を飲まなければいけない患者やその家族の生活をより良いものに変えたのではないでしょうか。

(写真=iStock.com)
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