成長する事業を創造できる人は何が違うか。世界一のデザインコンサルティング会社IDEOの野々村健一ディレクターは「日常に潜む“当たり前”に疑問を持てるか。米国のある薬剤師は日常の疑問から一つの問いを投げかけ、全米3000万人が使う事業をつくった」という――。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/ipopba)

※本稿は、野々村健一『0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力』(KADOKAWA)を再編集したものです。

AIにもできない自由研究のテーマ設定

「最近の子どもたちはなんでもググれるから、私たちが子どもだった頃より頭が悪くなっているよね」

ある日、カフェで仕事をしているときに聞こえてきた、ママ友同士の会話です。

「そうそう、なんでも簡単に答えがわかっちゃうから、娘の夏休みの自由研究のテーマが決まらないのよ」

確かに、今や大抵のことはネット検索をすれば数分以内に調べることができ、「答え」の相対的価値は下がっています。AI時代が到来し、子どもたちの宿題にも影響を及ぼしていますが、このママ友たちの言うように、その結果、「人間は頭を使わなくなる」のでしょうか?

私はむしろ、逆だと思います。例えば、他の人とかぶらず、ユニークで、AIに聞いてもすぐわかる類のものではない、夏休みの自由研究のテーマ設定。これは、与えられた課題に対して「答え」を探すことよりも、はるかにクリエイティブで、難しい作業ではないでしょうか。

こうした「問い」を立てることは、今のところまだAIにはできません。

この自由研究のテーマ設定の話は、実は、今大人たちが直面している課題にも通ずるところがあります。

「答えのない課題」と向き合う時代

私が勤めるIDEO(アイディオ)は、アップルの初代マウスをデザインしたことで知られていますが、その後領域を広げて今ではデザインを通じて様々な組織のイノベーションを促すコンサルティング会社であり、世界に9拠点を構えています。青山にオフィスを置くIDEO Tokyoには、日本の各業界をリードする多くの企業の方々が相談に来られます。問い合わせの件数は年々増え、昨年は年間120社を超えましたが、その相談内容の多くは、

「新規事業部が立ち上がったが、何をしたらいいかわからない」
「この事業の未来を考えたい」
「発想を変えたい」

といった、前例も正解もない「問い(課題)」ばかりです。

目まぐるしく変化する社会で生きる我々は、日々「答えのない課題」と向き合っています。そもそも課題自体が何であるかすら、わからないことが多いかもしれません。この予測不能で不確実な時代に自ら未来を切り拓いていくためには、これまでにない新たな価値を生み出すことが求められています。

「イノベーション」がバズワードのように飛び交い、多くの企業が焦燥感を感じていることは、こうした変化の象徴なのかもしれません。