ロジカルシンキングの限界
ハーバードビジネススクールのロザベス・カンター教授が2006年に発表した論文によると、「イノベーション」という言葉は概ね6年周期で流行し、様々な企業の注力分野として戦略の中に現れるようです。この周期の理由は様々ですが、主に経営層の入れ替えや、ビジネスを「創る→回す」の新陳代謝が挙げられます。
そして、そのサイクルは年々加速しています。
この一役を担っているのがデジタルの浸透ですが、イノベーション、もしくは新たにビジネスを生んでいくという行為は、「数年おきに取り組むもの」ではなく、「カイゼン」のように組織の基本動作にしていくことが求められるようになっているのです。
そんななか、今でも日本(そして多くの海外)のビジネスの現場では、連続的な論理構築、もしくは「ロジカルシンキング」が全盛です。ロジカルシンキングの有用性を否定する気はまったくありませんが、これは「論理的な選択」をするためのツールであり、選択肢の中から答えを導き出すものです。
誰もが同じ方向を見ながら論理的に導き出される答えは重複しますし、模倣可能です。それでも皆で分け合える巨大な市場があるときはやっていけますし、既存の事業を効率化していくうえでは効果的でしょう。
「次世代の通勤電車」はどうすれば考えられるか
しかし、今求められているのは、「新しい選択肢を創造」することです。「他と違うこと」「これまでにないもの」を創らなければならないのであれば、求めるべきものは「答え」ではなく、多くの可能性を生み出す、良質でクリエイティブな「問いかけ」なのです。
例えば、鉄道会社の方が「次世代の通勤電車」について相談に来たとしましょう。どんな問いかけから始めてみたら、面白い発想が湧きそうだと思いますか?
例えば次の3つだとどうでしょう?
(1)どうすれば新しい電車体験を、0からつくることができるだろうか?
(2)どうすれば今より20%多くの人が乗れる電車を作ることができるだろうか?
(3)どうすれば東京で毎日通勤する人々がより自由な働き方ができるような移動体験をつくることができるだろうか?
これらの中に、間違った問いはありません。(1)のような大局的な問いで「電車のあり方」を問いかけていくのもいいでしょう。(2)のように具体的な目標値を掲げて物理的な電車のあり方を改善していくのも方向性としてあると思います。
私のオススメは、(3)です。もしかしたら電車以外の移動手段も発想できる余白を残しつつ、どんな人たちのために発想をしているかも思い描けます。