観客の怒号と背後で鳴った銃声
その時だ。会場の雰囲気がガラッと変わった。日本でも、アマチュアボクシングに限らず、格闘技の試合ともなれば観客は声を張って声援を送っている。自分が応援していた選手が負ければ、時には声を荒らげて怒りを露わにするファンも珍しくない。
「クソ野郎! ふざけるんじゃねえ!」
「日本人は負けたんだろうがよ! 誰だ、てめえ!」
「俺の金を、どうしてくれるんだ、こらあ!」
言葉こそわからないものの、おそらく、こんなようなことを叫んでいたのだろう。
海外におけるボクシングというのは、アマチュアであっても、多くの場合ギャンブルの対象であり、観客席では毎試合、多額の金が動いている。おそらく、あの試合もそれは同様で、私の抗議によってタイの選手が負けてしまったがために、損をした客は少なくなかったはずだ。次の瞬間、背後から銃声がした。
パンッ。
アマチュアボクシング界では大金が動く
アマチュアボクシング界において、大金が動くのは客席だけではない。国際ボクシング協会(AIBA)での活動を通し、役員たちが命と大金をかけて駆け引きする様を、私は何度も目の当たりにしてきた。ギャンブルの対象になるということは当然、興行関係者にも、それなりの筋の人間が多くなる。
この大会以前にも、試合の判定をめぐる私の行動を快く思わない連中から、「殺すぞ」と背中に銃口を突きつけられたことがあったし、負けた選手の親が判定をめぐって激怒し、元AIBA会長、アンワール・チョードリー氏を殺そうとする事件も起きた。おそらく、アマチュアボクシングの世界大会の結果を見れば、皆さんも“何かの力”が働いているのではないかと、思わず疑ってしまうに違いない。
ちなみに、この時の大会では12階級中5階級で、開催国であるタイの選手が金メダルを獲得。銅メダルも3つ獲得している。さらに、現AIBA会長のガフール・ラヒモフ氏が率いるウズベキスタンは金メダルを3つ、銀メダルを4つ、銅メダルを2つ。現AIBA副会長のセリク・コナクバエフ氏率いるカザフスタンは金メダルを3つ、銀メダル、銅メダルをそれぞれ1つずつ獲得した。