ごく短い期間の集中力は上がるが、脳にダメージ

一点集中とマルチタスク、どちらのほうが仕事の効率は上がるのか。脳神経科学者として、迷わず「一点集中」と答えます。

脳はマルチタスクが苦手で、「人間は本質的にマルチタスクはできない」といったほうがいいくらいなのです。例えばA・B・Cという3つの活動を、脳は厳密な意味で同時に進めることはできません。このようなマルチタスクをすると、いや正確にはマルチタスクをしていると思いこんだ行動をしていると、脳内でストレスホルモンのコルチゾールが増えていきます。

ごく短い期間の集中力は上がるのですが、この状態が続くと脳へダメージを与え、機能が落ちてきたり、脳細胞が死滅したりしてしまいます。これは、うつ病のリスクを増大させたり、新しい記憶がつくられにくくなったりと、認知症のような症状に繋がることが知られているものです。

「歩きスマホはNG」のもう1つの理由

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Ridofranz)

マルチタスクは一見効率がよく思えますし、ビジネスの現場でもデキる人に見えそうです。しかし、いくつかの仕事を同時並行でこなさなければいけないときには、1つの仕事に集中して、ほぼ終わらせてから次の仕事に移るというように、「一点集中」を何回か繋げていくほうが効率がいいことが明らかになっています。

わかりやすい例が、歩きスマホです。道を歩くという行為は、それだけで、動く、人や障害物を見る、避ける、という高度な情報処理を要します。さらにメールを打つ、SNSでやりとりするといったスマホを使う行為を同時に行うと、どちらも効率が著しく低下してしまうのです。