「企業の価格が高すぎる」は言い訳に聞こえる

株主に宛てた書簡の中でバフェット氏は、世界的に金利水準(国債流通利回り)が低く投資資金が滞留している(カネ余り)環境において、買収を行うにも価格が高すぎるとの心境を吐露した。投資先を見つけて損失を挽回したいが、思うように環境が整わないというもどかしさをバフェット氏は痛感しているようだ。

見方を変えれば、バフェット氏は変化に気づくのが遅れ、現在、苦境に直面しているとも言える。今後、バフェット氏が投資を通して従来のように高い利得を手に入れることは容易ではないだろう。

カネ余り環境で価格が高すぎるというのは、ある意味、言い訳に聞こえてしまう。企業経営者になぞらえれば、「経済成長率が低すぎるから新規事業が伸びない」というのと同じだ。どのような環境でも成長を遂げる企業はある。

なぜバフェット氏は自らの投資哲学を見失ったのか

もし価格が高すぎると思うなら、高値圏で推移する株を買うのではなく、時間をかけて相場が下落するのを待てばよい。それがバフェット氏の重視してきた“忍耐”だ。待っている間、将来、何がヒットするかを考え、それをもとに価格が低い局面をとらえて投資するのがバフェット流だった。それは、将来の展開を予想し、変化に適応することに他ならない。

2016年以降、カネ余りや成長への期待から米国のIT先端企業の株価が大きく上昇することにつられ、バフェット氏は自らの投資哲学を見失った部分があるといえる。バフェット氏以外にも、株式・債券投資の分野で“権威”として世界の注目を集めた著名投資家が引退している。それは、海千山千のベテラン投資家でも対応するのが難しいほど、近年の世界経済の変化のスピードが速くなっていることの裏返しだ。

重要なことは、虚心坦懐に、理解できるものと、わからないものを分けることだ。その上で、わかる内容を増やせばよい。それができれば、想定外の結果(リスク)を減らすことができる。リスクを減らすことができれば、投資、企業のマネジメントなどにおいて大きな損失を出すことは回避できるだろう。いかにわかるものを増やし、変化に適応するか。これがバフェット氏が直面する苦境からの教訓だ。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(写真=Avalon/時事通信フォト)
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