古ぼけた「町中華」がむしろ支持され続けるワケ

とはいえ、町中華が衰退していく食文化であることに変わりはなく、町中華探検を始めてからの数年間で、閉店する店をいくつも見てきた。潰れるのではなく、店主が体調を崩すなどの理由で急に店を畳むケースが多い。

昭和30年代からの高度成長期に人気となり、昭和末期の1980年代前半にかけてその数を増やしていった町中華は現在、高齢化が進み、店主の大半は60代以上。重そうに鍋をふる70歳を過ぎた店主がザラである。後継者不足も深刻。チェーン店に押され、かつてのように儲かる商売ではなくなったので、自分の代で終わり、息子にはあとを継がせないと語る店主が大半だ。なかには後継者に恵まれたり、新たに独立オープンしたりするところもあるが、いまのところはまだ少数に留まっている。

『町中華探検隊がゆく!』(交通新聞社)。隊長を務める北尾トロさんら隊員5人が都内の名店50軒を取材。

しかし、「ああ、また一軒消えた」と悲しんでいるのは探検隊メンバーくらいのもので、世間的にはそんな気配を察していない人が大半だと思う。なんだか流行っているみたいだし、今が旬のようにとらえている人さえいそうだ。

なぜ、こんなギャップが生じるのか。それはまだまだたくさんの町中華があるからだ。大都市なら、私鉄沿線の小さな駅でさえ、周辺を歩けばひとつやふたつの店が発見できる。全盛期を知っている者は、かつてはこんなもんじゃなかったと思うわけだが、見方を変えれば、駅前の一等地をチェーン店が占拠する時代にこんなに残っているのは大健闘と言えるかもしれない。

「町中華」がしぶとく生き残る5つの理由

ゆるやかに数を減らすことはあっても、一気にはなくならない。その理由は個人店ならではの強みを生かしている結果だと僕は思う。いくつか挙げてみよう。

【1:今ある店はすべて勝ち組】

全盛期、過当競争と思えるほど林立していた町中華。現在残っている昭和の時代に創業された店は、競争に勝ち抜いた店ばかりなのである。評価の基準は味だけとはかぎらない。町中華は日常食。住んでいる町や勤務先近くで食べることが多い。味はそこそこだけど立地が良い、すぐできる、安い、量が多い、メニューが豊富、居心地が良い、マンガが揃う、店主の人柄が良い……ストロングポイントはいろいろあり、それを認める人がリピーターとなって支えてきた店だ。固定客中心で、通りすがりの客を当てにしない強さがある。

【2:旨すぎない味である】

飲食店で最も大事なのは味という常識も町中華には通用しない。もちろん味は大事だが、旨ければ良いというものではない。カンジンなのは、癖になる味付けであることだ。そこそこ旨くて、なぜだかしらないが週に一度は食べたくなるような店こそ最強なのである。