高齢化先進国の日本が人手不足にどんな対策を打っていくのか、海外も注目しています。外国人労働者に頼るよりも、AIやロボットを活用して生産性や付加価値を高め、人間とテクノロジーが調和した社会で高齢化を乗り切るほうが、高齢化対策における真の先進国になれるのではないでしょうか。

特に人手が不足していると言われる分野でも、テクノロジーを活用することで省力化できる部分は多いと思います。例えば、農業の場合、高価な機械を一軒の農家で導入することは難しいかもしれませんが、複数の農家で共同購入したり、あるいは農地を共同で運営するようにすれば、少ない人数で安価に良質な農産物を作れる可能性があります。またサービス業では、AIを導入して来店客数予測をすることで生産性を高め、人員の適正化に成功した食堂の例もあります。このように、「人がいなければできない」という従来の意識を変え、テクノロジーを活用して少人数でも効率よく仕事ができるように知恵を絞ることが必要でしょう。

省力化がなかなか進まない理由は、ある程度の初期投資が必要だからです。例えば、私たちはパソコンを使わなくても計算することができますが、エクセルなどの表計算ソフトを使えば、より効率よく計算することができます。ただ、使い方を覚えるには勉強が必要です。その初期投資を面倒くさがらずにすることが大切なのです。

省力化の意識は、働く一人ひとりが自分のキャリアを考えていくうえでも重要です。私たちの働き方は、現在だけを切り取ってみると変わっていないように見えます。しかし、10年前や20年前の働き方と比べると、かなり変化しているはずです。スマートフォンやパソコンなどのテクノロジーは働き方に大きな影響を与えました。人間がやらなくてもいいことが増え、その分の時間を別のことに使えるようになりました。今後も同様で、AIやロボットなどの普及で人間がやらなくていいことが増えたときに、何をやれば自分の付加価値がより高まるのかを考えるべきです。

テクノロジーが人間の仕事を奪ってしまうのではないか、というネガティブな見方もあります。中には無くなってしまう仕事もあると思いますが、それは機械に任せて、代わりに人間は何をすべきかを考えることが、人手不足の日本では特に重要だと思います。

阿部正浩(あべ・まさひろ)
中央大学大学院経済学研究科委員長、中央大学経済学部教授
慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。電力中央研究所、一橋大学、獨協大学等を経て現職。専門は労働経済学。著書に『日本経済の環境変化と労働市場』、『多様化する日本人の働き方』(共編著)など。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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