主張は最後ではなく最初に述べる

では、聞き手との「対話」は、どこから始めればよいのだろう。そのための準備は話の「組み立て」から始まる。主要な論点を軸に、それを裏づける証拠を添えてプレゼンテーションを組み立てよう。1対1の会話では、人はたいてい先に主張を述べ、それからそれを証明する。たとえば、あなたがバーで友人に話すとしたら、「オリンピックはいつも同じ場所で開かれるべきだ。そのほうが簡単で安上がりだし、安全だ」というように、まず主張を述べ、それからそれを裏づけるはずだ。「オリンピックについて、これからいくつかの選択肢を検討してみたい」とは、まず言わないだろう。それなのに、多くのプレゼンテーションがそのように組み立てられている。証拠を先に出し、それから結論を述べるという「われ思う、ゆえにわれあり」式のやり方でだ。これは文章ではきわめて効果的だが、談話ではそうではない。

主要な論点を証明するために使う証拠は思考を刺激するものにしよう。適切な例や逸話はだらだら並べられた事実より、はるかに生き生きした絵を頭の中に描き出させる。図表のスライドは文章のスライドより、思考を効果的に刺激する。

では、プレゼンテーションそのものはどのように行えばよいのか。数人の聞き手に向けて話しているとき、どうすれば「対話」状態を生じさせることができるのだろう。聞き手の全員から反応を期待することはできないし、仮に全員から反応があったとしても対処できない。それに、ひとつアイデアを述べるごとに質問のために話を中断していたら、肝心のメッセージを伝えられなくなる。

しかし、会話で自然に行うことをプレゼンテーションに取り入れれば、聞き手は1対1の会話の場合と同じように参加していると感じる。そのためのひとつの方法として、意見を述べた後に「間」を置くことだ。間があると聞き手は知らず知らずのうちに、語られた内容を頭の中で咀嚼している。

アイコンタクトを伴った、この「わかりましたか?」という間は、聞き手からの反応を引き出す。通常は頷きとか、不満の表情とか、「わかったから話を先に進めてくれ」と伝えるシグナルなどだ。ペースをつくるのは聞き手である。いぶかしげな反応や退屈そうな反応が返ってきたら、「ここまではよろしいでしょうか」とか、「私の申し上げたいことがおわかりでしょうか」といった決まり文句を使って対応しよう。

実例や逸話は、聞き手が頭の中に絵を描き出し、話の内容を自分自身の経験に関連づけることを助けてくれる。ジョーク集で読むジョークはたいてい退屈なものだが、同じジョークを腕のあるコメディアンが語ったら、話が始まったとたんに聞き手は笑い転げるだろう。優れたコメディアンの語りを聞いていると、聞き手は知らず知らずのうちに頭の中に絵を描き出し、話の内容を自分の経験やユーモア感覚と関連づけている。

修辞疑問を使うのも効果的な手法だ。ここでひとつ実験。読者の皆さん、次の質問について考えないようにしてください。「この記事はこれまでのところとても面白いですよね?」。

さて、この問いに反応せずにいるのは難しくなかっただろうか。たとえ私が皆さんの答えを気に入らなくても、私は皆さんを対話に参加させていることになる。