「手抜き感」のイメージを覆したい

味の素冷凍食品 開発マーケティング部の竹岡千賀氏(撮影=プレジデントオンライン編集部)

同時におにぎり丸は、「冷凍食品へのイメージの刷新」というミッションも背負っていた。

冷凍食品が食卓に並ぶことは珍しくなくなった現在も、日本の家庭の「手作り信仰」は根強い。

「便利な反面、『手抜き感がある』といったネガティブなイメージで捉えられがちでした。冷凍食品の新領域を切り開くことで、それを覆したかったんです」(竹岡氏)

おにぎりと冷凍食品は、いずれも手間が掛からないからこそ「やるべきことを省いている」という罪悪感を伴いがちだった。それに対して同社は、両者の強みを掛け合わせ、ポジティブな「機能性」を打ち出すことを試みた。

消費者の反応を見れば、それが成功していることは明らかだ。作ったおにぎりをツイッターやインスタグラムでシェアし合ったり、「握らずに弁当のおかずとして使う」「うどんにトッピングして“カレーうどん風”にする」といった意外な利用法を編み出したり……。「後ろめたさ」を感じていれば起こり得ない現象が広がっている。

店頭やSNSで消費者の声を拾う

SNS上の反応などを踏まえ、発売から1年たった2018年2月には商品のリニューアルも行った。

「以前はご飯で具材を覆い隠そうとすると、おにぎりが大きくなりすぎてしまうという意見が目立ちました。そこで具材の形を以前より平たく改良し、包みやすく、一般的なサイズで握ることができるようにしました」(竹岡氏)

今までなかった商品だったからこそ、消費者へ受け入れてもらうため、発売当初から開発担当自ら店頭に立ち、試食などのプロモーションを実施してきた。野球やサッカーなど子供向けのスポーツ大会にも出張し、商品を体感してもらう取り組みを繰り返した。市場での認知が高まったリニューアル以降は、CMも当初の革新性を強調するものから趣向を変更。毎日の食事の栄養バランスに悩む母親への訴求を強めるものへ刷新した。

今後も店頭での活動やSNS上でのコミュニケーションを通じ「どんな小さな声も商品にフィードバックしていきたい」と竹岡氏は語る。冷凍食品は、おやつでも軽食でもなく、毎日の食卓に並ぶものになりつつある。生活に寄り添う「課題解決型」の商品で、市場へのさらなる浸透を狙う。

加藤藍子(かとう・あいこ)
ライター・エディター
慶應義塾大学卒業後、全国紙記者、出版社などを経てライター・エディターとして独立。教育、子育て、働き方、ジェンダー、舞台芸術など幅広いテーマで取材している。
(撮影=プレジデントオンライン編集部)
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