結局、新価格はいくらになる?

では、蓄電池価格が政府目標の「2020年までに寿命15年で工事費含まず9万円/kWh」からもう一段、二段と下がるためのシナリオはあるのか。

「政府が補助金などを活用しながら価格誘導を図っていますが、いつまでも補助金に頼るわけにはいきません。ただ、おそらく今後は太陽光発電システムがそうであったように、安価な製品が海外から輸入されることにより、価格の低減圧力が働くのではないでしょうか。太陽光発電の場合、パネル価格低減の影響もあり、アメリカやオーストラリアの大型発電プロジェクトにおいて、火力発電より安い発電コスト約3円/kWhを実現しているケースもあります。家庭用蓄電池の分野では、海外製品の安全性の改善や日本の認証制度への対応も含めて注目されます」

自家消費拡大路線は、「卒FIT」と同時に取り入れるべきものというわけでもない。しばらくは余剰電力を売電しながら様子見し、蓄電池などの価格が十分に下がってから取り組んでも遅くはないはずだ。

ではそれまでの間、電力を買い取ってくれる事業者を選び、相対・自由契約で売電するとしたら、固定価格買取期間と何が違ってくるのだろうか。

「まず法律に基づく電力会社の買取義務がなくなります。買取期間満了の時期については、現在電力を買い取ってもらっている電力会社から、その6~4カ月前に個別に通知が届きます。『もう10年経ってしまったのか』と、そこで始めて卒FITが目前に迫っていることに気づく人も少なくないかもしれません。また、大手電力会社はじめ電力買取の意思がある事業者は、今年4~6月頃までに価格を含む買取メニューを発表するでしょう。それを参考にしながらどの事業者と契約するかを選ぶことになります」

売電するとなれば、なんといっても気になるのはその価格だろう。

「火力による発電コスト並みの6円/kWhから9円/kWhといったレンジが中心になるのではないでしょうか。48円/kWhと比べれば大幅ダウンとなりますが、それは10年前からわかっていたこと。売電による収入がゼロになるわけではなく、太陽光パネルに付属するパワコン(注)が寿命を迎えるまでは、新たに発生する投資コストもありません。売る側と買う側の双方が納得できる価格帯といえそうです」

再生可能エネルギーは将来へ向け、その存在感をますます強めていくだろう。企業の中には、すべてを再生可能エネルギーでまかなおうとする動きも出始めている。

「電力システムの将来のあり方を考えると、なるべく自分の家で発電したものは自分の家の中で使うというスタイルは大きな意義があります。一方、蓄電池や需要削減などと組み合わせて電力の需給を調整するVPP事業もこれから広まると考えられており、家庭の売電先としてVPP事業者も選択肢の一つとなり得ます。2019年問題は、エネルギーサービスが新たな段階へと歩を進める契機となるでしょう。だからこそ、一般家庭の消費者が選択で戸惑わないよう、よりわかりやすい仕組みを構築できるかどうかが、再生可能エネルギーの普及発展において大きな鍵を握るといえそうです」

(注)パワーコンディショナー。太陽光発電システムや家庭用燃料電池を利用する際、直流の電気を交流に変換して、家庭用の電気機器などで利用できるようにするための機械。

(小澤啓司=文 山本つねお/アフロ=写真)

三浦大助(みうら・だいすけ)
三菱総合研究所 環境・エネルギー事業本部エネルギーシステム戦略グループ シニアプロジェクトマネージャー
2000年京都大学卒業、03年同大学院修士課程修了後、三菱総合研究所入社。国内外の電力・ガス事業制度に関する調査・分析に多く従事している他、メガソーラーや分散型エネルギーリソースを用いた事業開発を手掛けている。最近は、VPP事業(アグリゲーション事業)に係る事業化検討にも注力。12年から14年まで世界銀行にて、ベトナム向け電力融資案件の形成・遂行・評価を実施した。
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