企業の人事担当者と人材コンサルタントに聞いた

インタビューの概要は、図表2のとおりである。調査では、「企業にとって優秀な人物とはどのような人物か」「大学院修了者は、あなたの企業では『積極的に採用したい人材』か」の2点を中心に語ってもらった。

図表からわかるように対象者数は限られ、文系を念頭に置いて答えてもらった調査だという点も断っておかなければならない。一般化できるレベルでないことは承知しているが、それでも一考に値する仮説ではないかと考えている。問題の本質にどれだけ近づけているか、読者の判断に委ねることにしたい。

改めて述べれば、大学院就職難民の原因については、大学の側にあると見なされることが多い。とくに批判の矛先が向かうのは、学術性の問題である。小難しい理論や、特定領域の知識をいくら知っていても、それが企業の現場で活きることはない。このような理解が主流である。

しかし人事担当者の声に耳を傾けていると、企業側にも原因があるのではないかと思えてくる。ここでは2つの点に触れておきたい。

数合わせが最優先、「見極める能力」は低い

第1は、人事の「人を見る力」に関わることだ。以下は、人材コンサルタントのV氏の語りである。

まず、言えるのは、採用をやっている人によって真剣さが違います。たとえば、自分の右腕がほしいというような社長は、本気で見極めようとするし、いい人を本気で口説こうとします。でも、これが人事課長だったら、目標は「頭数」になります。ミッションが、「いい人を採用する」から「人数を合わせる」に置き換わります。人事部長でも同じことです。社長と同じ思いで死ぬ気で見極めようとして、それで誰も採れないぐらいだったら、言われている数を採ったほうがいいです。
よほど合わない人であれば排除しますが、そうでなければいいのではないかということになります。結局、本気で見極めたいという動機がずっと続くということがないのです。だから、そう、企業の見極める能力は低い。……それにそもそも日本の人事(部に属する人)は、大抵人事異動で変わるので、本当のプロにならないのです。
(V氏)

この発言をみる限り、企業人事担当者の見極め力もすぐれたものとは言えなさそうだ。数合わせを最優先に考える数年間の経験では、人材を見極める能力は育たない。「何でも十年真剣にやれば、プロになる」「10000時間やれば、一段階上にいける」という経験談を聞いたことがある。思想家の吉本隆明氏の言葉だという話もあるが、それを基準にすれば、多くの人事担当者がアマチュアだということになる。