「営業をやっていないから優秀な人材がわからない」

もちろん、なかには人事一筋数十年という人もいる。調査に協力してくれたT社の人事担当者がそうだった。ただ、彼からも次のような発言があったことは注目したい。

私も営業の面接をしますが、自分が営業をやっていませんから、営業で優秀な人材というのがよくわからないのです。
(T社人事担当者)

同じロジックは、営業以外にも使えよう。人事のプロは、営業のこともわからなければ、商品の企画開発のこともマーケティング調査のこともわからない。頭で理解していたとしても、実感レベルで理解しきれていない。いま面接している人が、自分のよくわからない分野でどのような活躍ができるのか、イメージできないままに採用するかどうかを決めている場面も多々あるのではないだろうか。

これが日本の企業で人事という業務をこなすことの難しさであり、限界なのだろう。そして、その難しさや限界のなかで、大学院修了者が正当に評価されず、埋もれていっている蓋然性は高いとみることもできる。

大学院修了者に対する過剰な期待

第二は、企業側の過剰な期待だ。インタビューに協力してくれた企業は4社だったが、ほぼすべての人事担当者から、次のような語りを得ることができた。U社の例で説明しよう。MBA採用を話題にしていたときの言葉である。

アイディアを出すことはもちろん大事ですし、知識も大事です。でも、最終的にはそれを「かたち」にしないと会社に貢献したことにはなりません。……たとえばMBAを採りますよね。その人はアイディアも出すし、知識もあり、スキルもある。でも、だからといって、そのあとに人をアサインして、周りの人を巻き込んで、事業の意義をきちんと説明できて、事業計画も立てられるというところまではいきません。かたちにならなければ、評価することはできません。
(U社人事担当者)

要は、ビジネスをある程度のところまで育て上げる人材になっているのであれば、MBAを雇ってもいいが、そうでないから雇わない、という趣旨の発言である。かたちにならなければ企業にとっては無意味だというのは、よくわかる。しかし、ここで考えてみたいのは、そこまで担えるような人材がどれだけいるか、ということである。