もう一つの論点は、最近ユーザーを急速に増やしつつある加熱式タバコへの対応だ。匂いが少なくてタールも出ず、主流煙が含む主な発がん性物質は、紙巻きタバコに比べ75%~99%以上も少ない(*1)。「最近は喫煙所によっては、紙巻きたばこより加熱式たばこのユーザーのほうが多いこともあります」と、加熱式たばこに詳しいライターのナックル末吉氏は言う。吸い込んだときだけ加熱する構造なので、副流煙がないことも特徴だ(したがって、受動喫煙に関係するのは吸った人が吐き出す呼出煙のみとなる。正確には、燃焼しているわけではないので、排出しているのは煙ではなく蒸気であることも健康被害が少ない理由の一つ)。

だが今回の改正健康増進法では、加熱式たばこも原則として通常の紙巻きたばこと同じ扱い。当分の間の経過措置として、飲食店などでは現行の分煙タイプに近い専用スペース(飲食等も可)での喫煙も認められているが、その場合も紙巻たばこ用の専用喫煙室と同等の煙流出防止措置が義務付けられそうだ。「(紙巻たばこ用の)喫煙専用室と同等の基準を設けることは過剰ではないのか」という意見も、飲食店などの業界団体へのヒアリングでは上がっていたが、18年12月11日に厚労省で開かれた「第11回たばこの健康影響評価専門委員会」では、「入口における風速が毎秒0.2メートル以上」という規制を加熱式タバコ専用室にも適用する方向で、事実上の結論が下された。

なぜ「紙巻き」と同列に論じるのか

有害物質の量が大きく違うのなら、当然健康への影響も違い、したがって対策のレベルも変えていいのではないかというのが素朴な感想だろう。だが実は、受動喫煙対策をめぐる議論では、「どんな成分をどのくらいの量、どのくらいの時間浴びると有害だから(あるいはガン発症のリスクが許容できないレベルで上昇するから)、それに基づいてこういう対策を行おう」といった定量的な話は基本的に出てこない。

「たとえば代表的な発ガン性物質の一つであるホルムアルデヒドについては、大気中や室内環境での濃度がいろいろなところで測定されていて、それをもとに健康への影響が議論されます。ところがたばこの煙に関しては、実際にどのくらい曝露しているのかという量的な測定がほとんど行われていません」というのは、空気環境の研究を専門とする東海大学理学部の関根嘉香教授だ。

たとえば、受動喫煙の有害性を証明するものとしてしばしば引用される国立がん研究センターの肺がんについての研究(*2)は、非喫煙者の受動喫煙と肺がんの関連を報告した9本の論文を統計的手法で分析したものだが、対象となった元の論文のデータは、「家族が喫煙者かどうか」「喫煙する家族は一日何本ぐらい吸っていたか」を自己申告で聞き取ったもの。自宅に喫煙者がいる場合の受動喫煙と肺がん発症の関連性(この研究では発症リスクが1.3倍になったと結論)は証明できるかもしれないが、曝露量と発がんリスクの関係を算出して適切な許容曝露基準を定められるようなデータではない。