結果として受動喫煙対策は、定量的なリスク評価に基づくものではなく、「曝露量がどうであれ許容できない」というゼロリスク論的な方向で進められているようだ。

「日々の生活の中で配偶者のたばこの煙を浴び続けるという状況は、確かにリスキーだと思います。しかし、たとえば屋外の喫煙所の前を通ったら、少し煙が漏れてきていて当たったという程度の曝露量で、発がんリスクが大幅に上がるということはないでしょう。私も禁煙推進派ですし、受動喫煙が無害だというつもりもありませんが、健康の話をするのであれば量をきちんと把握する必要はあると思います」(関根教授)。

「それだけ喫煙者に対する眼差しが厳しくなっているということでしょうね」と言うのは、ナックル末吉氏だ。「加熱式たばこでも、吸った人の口からは煙ではないにせよ白い蒸気のようなものが出ますし、においも少ないとはいえまったくないわけではない。それを白い目で見る人もいるだろうと思うと、これは加熱式たばこだからと強く主張する気には毛頭なれません。オリンピックが一つの機会となって、受動喫煙の影響も少なそうだから加熱式タバコは別扱いしようという流れができるかもしれないと思っていたんですが……」。

最近、他大学との共同で、日常生活での受動喫煙への曝露量を実際に測定する研究を行っている関根教授は、諸外国並みに屋内は禁煙で吸いたくなったら戸外の喫煙スペース、加熱式たばこについては紙巻きたばこよりゆるやかな基準で規制という方向が「科学的にはいちばん妥当でしょう。喫煙専用室は費用もかかりますし、換気装置が故障したらどうするという問題もありますから」と言う。だがナックル末吉氏によれば、実際には屋外の喫煙所はむしろ減らされる傾向にあり、残った喫煙所の混雑が激しくなっている(つまり煙やにおいが強まっている)。

規制をゆるめて加熱式たばこが吸える場所を増やし、紙巻たばこ利用者の乗り換えを誘導して、受動喫煙による健康被害のリスクをトータルで下げるといった発想もありえるはずだ。だが今のところ厚労省は、科学的に見ればいささか乱暴なゼロリスク論に基づき、設備費用の負担や場合によっては罰則までを事業者に課す規制を導入しようとしている。

すでに厚労省は、昨年末の12月21日、『「健康増進法施行令の一部を改正する政令(案)」等に関する御意見の募集について』と題して、パブリックコメント(意見公募手続)を1月19日まで受け付ける旨を公表している。最終的な着地点は未確定ながら、これまでの推移をみる限り、加熱式たばこも含めた一律全面規制強化へと、一気に進みそうだ。

(*1)厚生労働科学研究費補助金構成労働科学特別研究「非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究」
(*2) Hori M, Tanaka H, Wakai K, Sasazuki S, Katanoda K. “Secondhand smoke exposure and risk of lung cancer in Japan: a systematic review and meta-analysis of epidemiologic studies”.

(写真=ロイター/アフロ)
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