他人が思う「虹郎」と本来の自分のギャップ
来年公開される映画『楽園』の撮影がスタートした。演じるのは、裏表のない純真な田舎の青年。この日も入念な役作りをして本番に臨んだが、片思いの相手に気持ちをぶつけるシーンで、役のイメージからずれていると監督に度々指摘された。
監督は「ありのままの虹郎ムードで」と言うが、「ありのまま」と言われても、どうもしっくりこない。役作りをして「演じよう」とする強い気持ちばかりが空回りしてしまう。
【村上】「フィクションを作っているから本当は自分を曲げないといけない。本来、フィクションは全部曲げているって思うんです。でも、だからこそ僕は特に、一番“自分の真ん中”にいなきゃいけないと思う」
他人が思う「虹郎」と本当の自分とのギャップ。自分を保ちながら俳優として「役」という別人格にアプローチすることは容易ではないというが、果たして正解はどこにあるのだろうか。
「まだ知らない自分」を求めて奄美大島へ
「自分を表現する」とは何なのか。「まだ知らない自分」はどんなものか。それを確かめたくて、虹郎にとって“役者としての原点”であるデビュー作の舞台、奄美大島を訪ねた。かつて河瀬直美監督に徹底的にしごかれた思い出の場所。この地で『誕生』をテーマにしたアート写真作品を親しいクリエイター仲間と共に作り、雑誌に掲載するという虹郎のオリジナル企画だった。
夕暮れ時、黄金色に染まった海をバックに浜辺での撮影が始まった。そこには顔や髪、上半身に真っ白なメイクを施し飛んだり跳ねたり奇妙なポーズをとってみたりする、何の「役」でもない、自然体の虹郎がいた。
【虹郎】「親の七光りって言われたら……僕は七つ以上に光ります! だって役者だし、七つ以上の役やってるよって。あれ? 七光りってそもそも何ですかね? 七つに光……めっちゃいい言葉じゃないですか(笑)!!」
村上虹郎、21歳。一つ一つ色を重ね、ますます輝きを増していくに違いない。
俳優
1997年東京都出身。俳優の父・村上淳とミュージシャンの母・UAの間に生まれる。神奈川県にあるシュタイナー学園に学び、その後沖縄移住を経てカナダへ留学。留学中に誘われた映画『2つ目の窓』(河瀬直美監督・2014年公開)で俳優デビュー。2017年公開の映画『武曲 MUKOKU』(熊切和嘉監督)で第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞。今月公開の主演映画『銃』では父・村上淳との共演が話題に。2019年には映画『チワワちゃん』、舞台『ハムレット』が控えている。動物が大好きで、特に大型犬が好き。理想は「自然のなかで一緒に住むこと」。