他の法案審議と比べて突出して短い時間で成立
自民党内には大家氏の行動を責める空気は全くない。サッカーに例えるなら、体を張ったプレーの最中でやむを得ず犯したファウルのような受け止めだ。
それが証拠に、麻生太郎副総理兼財務相は9日、大家氏のパーティーに駆けつけ「あれぐらい触った程度で暴力と言うのなら、あの人たち(野党議員)は、山手線のラッシュアワーに乗ったことがないのだろう。あれで暴力と言われたら、とてもじゃない。いろいろ、はめられる話はいっぱいある」と開き直ってみせた。この発言に対しては野党議員から「それなら麻生氏はラッシュアワーの山手線に乗ったことがあるのか」という突っ込みが入った。
入管難民法改正案の委員会審議時間は、衆参あわせて35時間45分(共同通信社調べ)。2013年に成立した特定秘密保護法案は63時間50分(同)、15年に成立した安全保障関連法案は約202時間11分、17年の改正組織犯罪処罰法案が55時間30分(同)。
今回の改正入管難民法は、論点は多岐にわたる。安保関連法などと比べても、審議時間が短くていいとは思えない内容が詰まっている。しかし、他の法案審議と比べて突出して短い時間で成立した。安倍政権の国会運営が荒っぽいのは今に始まった話ではないが、その荒っぽさは加速度的に高まっているのが分かる。
「森友」「加計」問題を取りあげる機会は極端に減少
この法案の成立を急いだ理由は、はっきりしている。慢性的、深刻な労働力不足に悩む経済界。来年夏の参院選に向けて経済界の支援を得たい自民党。国論を2分するような法案の採決は、来年の統一地方選、参院選からできるだけ離れてすすめてほしいという公明党。その3者の利害が一致したということだ。
問題は、野党がそれを阻止できなかった点だ。臨時国会では桜田義孝五輪相の「レンポウ」発言に代表される珍妙な答弁や、片山さつき地方創生担当相の政治とカネの問題、さらには「看板問題」に焦点が当たった。新聞、テレビは連日2人の答弁をおもしろおかしく報じた。
その結果どうなったか。48日間の臨時国会では安倍晋三首相を徹底的に追い詰めるシーンはほとんどなく、「森友」「加計」問題が取り上げられる機会は極端に減った。
安倍首相にとって臨時国会は、結構楽だっただろう。桜田氏の珍答弁も、片山氏の疑惑も、政権の屋台骨を揺るがすようなものではない。安倍氏の進退に直結するのは「森友」であり「加計」である。桜田、片山の両氏に追及の矛先が向き、「森友」「加計」の追及が緩んでしまったのは、野党の戦略ミスと言わざるを得ない。そして桜田、片山の2閣僚を辞任に追い込むことさえできなかった。