仕事部屋にカメラが潜入

(写真提供=毎日放送)

取材が始まったのは今年3月。諫山が創作の場を人に見せることはめったにない。カメラに映る自分を想像するだけでゾッとしてしまうからだという。

ネーム作り(あらすじの下書き)にとりかかる諫山は机につき、椅子に座ったままじっと考え込む。ものの30分もしないうちにあくびが出始め、ついに机から離れソファの上でスマートフォンをいじり始めてしまった。一向に作業が進む様子はない。

【諫山】「だいたいこの繰り返しなんですよね。眠くなってる時に良いネームが書けるわけないって思って寝て、起きたら腹減って、腹減ってる時に良いネームが書けないからって飯食って、飯食ったら眠くなって……(ため息)」

ネームを仕上げるまでに、およそ4日かかる。その間、きちんとした睡眠や食事もとらず、もうろうとした頭でそれでもペンを走らせる姿はまさにヒットメーカーのリアルな苦悩を現していた。

アフレコ現場で演技指導をしてみたが……

この日はテレビアニメの声を吹き込むアフレコの現場に赴いた。主人公のエレンとその仲間クリスタがお互いの理解を深める場面で意見を求められ、諫山は作者にしかわからないニュアンスを声優の梶裕貴に伝えた。

【諫山】「このセリフをきっかけにエレンはヒストリアを理解できてうれしいというか、安心したのでもう少しテンションを上げた方が良いかと……」

【梶】「自分の持っていたイメージと少し違いました。わかりました」

次の録音で、梶は諫山のアドバイス通り、見事にセリフのテンションを変えてみせた。ところが……

【諫山】「申し訳ないです。僕、変なこと言っちゃったみたいで……。元のテンションに戻してください」

梶のプロの仕事を目の当たりにした諫山はアフレコ終了後、ポツリと漏らした。

【諫山】「漫画家の分を超えたことをやった気がします(苦笑)」

この日の諫山は何だかとてもうれしそうだった。作品を面白くしようという気持ちはみな同じだと実感したからだ。