【私】力士として大事なことはなんでしょう?

【親方】力士として上に行きたいなら、まずケガをしないことです。ケガをしたら、出世が遅れます。相撲をしている限り、ケガを100%防ぐことはできませんが、ケガしにくい体を作ることはできます。そこを私は重視して指導しています。

腕立て10回できなくてもOK!

話をうかがう親方がひとりだけではウラをとったことにはならない。そこで私は日を改めて、今度は両国にある時津風部屋を見学することにした。親方は元時津海である。

【おかみ】親方は、柔道とかほかの競技の経験は、むしろないほうがいいというんですよ。

【親方】変な癖がついていないからね。

【おかみ】柔道は引きますよね。相撲は押しますから、その意味だとまっさらなほうがいいらしいんですね。

【私】相撲取りは、10時に稽古が終わったあとどんな1日を過ごしていますか?

【親方】稽古が終わったら風呂に入って、11時くらいから関取から順番にごはんを食べていきます。若い衆が食べ終わってから片づけをして2時くらいから昼寝をして、4時から起きて掃除をしたあと晩飯の支度をしていきます。夕食は6時からで、それを片付けてからは自由時間です。消灯は11時ですね。

【おかみ】先々代の時代はお弟子さんが50人とかいましたから朝2時から稽古していましたけどね。

【親方】そうしないと全員稽古できないんですよ。人が多いから。今はそこまで多くありませんから、朝も早くないんですよ。

【私】昔ほかの部屋を見学したときに、腕立て伏せ20回できないヤツがいて驚いたことがあるんですよ。

【親方】そんなのたくさんいますよ。腕立て10回できなかったヤツがゴロゴロいます。

【おかみ】(弟子のひとりを呼び)この子は、中学校の先生に連れてこられたんですよ。「お前はこのままだとワルになるしかないから相撲でもやれ」って。相撲経験は皆無でしたけど、今幕下まで上がっていて、たぶん次に関取になるのはこの子ですよ。

【私】野球とかサッカーだと、そもそも特待生になるのが難しく、そこで生き残るのはもっと難しく、ドラフト指名は東大に入るよりはるかに難しいという現実がありますからね。

【おかみ】その点相撲は競技人口が少ないし、競争もそういうスポーツほどではなく、月給に加えて給金や懸賞金もつきますからね。