さらに大切なことがある。十両になるまで、衣食住が一切タダになるということだ。衣についてはまわしか浴衣ということになるが、すべて部屋から支給される。食はちゃんこ鍋となるが、この食材は全て親方の負担となる。つまり弟子はびた一文払わなくていい。もちろん料理はしなければならないが、相撲取りになるということは質量ともに食べなければならないから、必然的に料理の腕も磨かれることになる。

そして住についても、大部屋の雑魚寝とはなるが、家賃ただで部屋に住み込むことができる。十両になれば付き人という名の召使いがつき、個室がもらえる。私も当然のように収入から家賃を払っているわけで、こんなおいしい話は出版業界には絶対にない。

力士だけでなく「裏方」の道もおいしい

「相撲は貧困脱出に最適の手段である」この仮説が正しいのかどうか、実際に相撲部屋を訪問して直接親方に確かめてみることにした。

2018年2月某日、私はスカイツリー近くの「鳴戸部屋」を訪れた。ちなみに、鳴戸親方はブルガリア出身の元大関琴欧洲である。新興の部屋ということもあり、弟子はまだ少ない。全部で4人で、稽古に参加していたのは3人。全体練習の後、親方に話をうかがうことができた。

開口一番、「子供たちの貧困脱出という観点から言って、相撲は一番だと思うのですが」と私が切り出すと、即座に親方は「私もそう思いますよ。だって、私自身19歳のときに父親が事故で働けなくなったから日本に来たわけですし、相撲部屋に入ってしまえば住むところ、着るもの、食べるもの全部タダですからね」と断言した。そして、相撲部屋で衣食住がタダになるのは力士だけではないのだ、と親方は力説した。

【親方】皆さん、力士のほかに相撲の世界には裏方がたくさんいるのを知らないでしょ。マゲを結う“床山”さん、もちろん行司、あと取り組みが始まるときに力士の名前を呼びあげる“呼出”もいます。15歳から給料をもらえますし、よほど問題を起こさなければ安定した給料をもらえる仕事ですよ。中卒でも月14~15万円は確実にもらえますよ。ある意味、中卒で入門したお相撲さんより条件はいいですよ。

【私】そうした裏方になるにはどうすればいいのですか?

【親方】まず第一に、18歳までに入らなければなりません。そして一場所でも早く入門したほうが先輩ですから、18歳で入って15歳のほうが一場所早く入ったから先輩ということが普通にあります。それなら早く入ったほうがいいでしょう。募集要項ですが、それぞれ定員があるのですよ。呼出枠が50人いて、50人いたら入れません。ひとつ空きができればひとり入れます。中3で卒業したときに入ろうと思うなら中一くらいのころから予約しておくことです。そこが新弟子検査を受ければいつでも入れる力士との違いですね。