【北尾】 この作品は厳しい経済環境下で苦闘しているビジネスマンにも大いに勇気を与えてくれるのではないでしょうか。80万人の曹操の大軍に対して孫権・劉備同盟軍の兵力はわずか5万人。まともにぶつかれば勝ち目がない中で、周瑜と諸葛孔明は知恵を巡らせ、最大限の努力をする。すると天が味方し、火計に有利な風向きに変わる。人事を尽くすことの大切さを見る人に強く訴えかけてきます。
【ジョン・ウー】 映画以外のことはまったく詳しくないのですが、現在の世界的な経済危機について言えば、アジアの人々は比較的早くこの問題を解決できると思っています。
アジアの中でも日本や中国は情けを重んじますから、危機を共通のものと捉えて、互いに危機を脱するように努力し、一致団結して難題に挑戦してゆけると思うのです。
映画では東洋人の不屈の精神と己や環境に打ち勝つための団結力、そして常に希望を持ち続けることの大切さもメッセージしているつもりです。アメリカやその他の欧米の国々は利益に重きを置きすぎているように感じますね。オバマ大統領も「ウォールストリートの住人は貪欲すぎる」と言っているくらいですから(笑)。
【北尾】 確かにここにきて、原理資本主義というべきものに対する批判が世界中で起こっている。私は21世紀という時代には、東洋の思想、哲学というものが世界を救う大きな鍵になるのではないかと思っています。
私利私欲だけではなく「利他」、他を利するため、社会のために何かをする。自分の主義主張を押し通すのではなしに、他と協調してやっていく。
もともとは中国の古典にある四書五経、あるいはそれ以前から出発している思想ですが、これがアジア全体に広く伝播して、長い歳月をかけてアジアの教養の根幹になってきたと思います。そうしたアジアの精神文化を広く西洋、あるいはイスラム圏に広めてゆくことが、21世紀の世界の平和と安定につながる。
【ジョン・ウー】 私の今後の作品も東洋の文化を中心としたものになります。映画は世界的なもので、国境はありません。ハリウッドの映画も撮りましたが、私は常に東洋の精神を中心に据えてきましたし、そのことに誇りを持っています。
【北尾】 孔子が周代の古典文化を後世に残したように、ジョン・ウー版『三国志』は中国の古典文化、東洋の精神文化を時空を超えて西洋に広めることになるのかもしれません。