日本には「建前と本音」を使い分ける文化が染み付いている。相手や組織の「建前と本音」をきちんと理解することでビジネス、取引も円滑に行く文化を育ててきた。しかし、それゆえに「忖度」や「勘違い」が生まれ、多くのムダや不正を生んでいるのが現実だ。元厚労事務次官の村木厚子氏は「役所をはじめとした日本型組織で不祥事が止まらないのは、不明確な『建前と本音』の文化に染まっているから。人とシステムの両方で明確なルールを作るべき」と指摘する――。

※本稿は、村木厚子『日本型組織の病を考える』(角川新書)を再編集したものです。

役所や企業の「働き方改革」に思うこと

今、役所も企業も、「働き方改革」に取り組んでいます。「残業はなくならないよなあ。でも世間並みに働き方改革はやらないと」と、いわゆる建前と本音を使い分けると、こんなふうになります。「夜8時以降は残業禁止。やっても記録にはつけるな」とか、「夜間、パソコンの電源を一斉に落とすから、残った仕事は家に持ち帰ってサービス残業だ」など。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Natali_Mis)

これでは働く方も楽にならないし、生産性も上がりません。そうではなく、残業時間をしっかり把握しながら、減らせる業務はないか、この会議は本当に必要か、意見集約の別の方法はないかなどを必死で考える。そうすると、まだまだ無駄なところや、改革の余地が大きいことがわかります。本気の努力をしても時間短縮ができないとなれば、その原因を明確にする。企業でいえば、親会社からの無理な発注、顧客の無理な要求などです。

そうすれば、政策や社会システム全体の改善に結びつき、生産性も上がり、社員の労働環境も改善します。この方が、苦労は多いが得るものも多い。建前と本音の使い分けでごまかすことをやめるという決意が必要です。

ルールやシステムを明確にすることが大事

それでは、その決意はどうやったら実現できるのでしょうか。具体的にやるべきことは2つだと思います。

1つは、建前通りに行動せざるを得ない明確なルールやシステムを作ってしまうことです。

人間は弱いので、誰でも上司や権力におもねったり、忖度(そんたく)をしたくなったりします。検事や警察官の場合は、適正な取り調べをしなければいけないとわかっているけれど、早く容疑者に自白をさせたいと思えば、強引な取り調べが多くなります。それならば、取り調べはすべて録音・録画をしてしまえば、無理な取り調べをする余地がなくなります。

また、事業に補助金をつける際、権力を持った政治に頼まれたら、忖度したくなります。それならば、明確な基準を作って優先順位を決めて補助金を出すこととし、そこから外れる場合は説明責任を課します。そして、それらをすべて情報開示します。役所は情報開示を嫌がると思われがちですが、そんなことはありません。「ルールを明確にして、情報を開示して、ルールと異なることをする時は説明責任を伴う」とした途端、役人はとても楽になります。