ロシア軍は、即応性の低さ・指揮系統の分断・機動性の欠如という“3つの弱点”を、ウクライナでの実戦経験を通じて克服しつつある、と海外メディアは報じている。海外メディアは、プーチンが「次の戦場」を静かに整えていると報じている――。
ニコライ・ヴォロブエフ地区長と電話で話すロシアのプーチン大統領
写真=EPA/ALEXANDER KAZAKOV/SPUTNIK/KREMLIN POOL/時事通信フォト
2025年5月22日、ロシア・モスクワのクレムリンにて、ウクライナの無人機による車への攻撃で負傷し、現在入院中のクルスク州ベロフスキー地区ニコライ・ヴォロブエフ地区長と電話で話すロシアのプーチン大統領

フィンランド国境に迫るロシアの兵力

ウクライナの領土を奪い取ろうとしているロシアだが、さらに、“ウクライナ侵略後”を見据えた不穏な動きが見られると報じられている。海外報道によると、ロシアは対NATO戦略の一環として、主にフィンランドとの国境地帯で軍備強化を進めているという。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、フィンランド国境から約160キロ離れたペトロザヴォーツク市では、今後配備が予定されている数万人規模の部隊を指揮すべく、新たな軍司令部の整備が急ピッチで進んでいる。

軍備強化のねらいは明白だ。現時点ではロシアの兵士は多くがウクライナ前線に展開しているものの、フィンランド国境の部隊には、「将来的なNATO諸国との対決に備えるうえで、ロシア軍の主力とする」意図があると同紙は指摘する。

ロシアは軍事基地の拡充に加え、国境地帯で鉄道網も整備しており、部隊を迅速に展開する体制づくりが進む。フィンランドの国家防衛大学のユハ・クッコラ少佐は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、「ロシア・フィンランド国境には、機械化部隊(装甲車両などを有し、戦車部隊と共に移動・戦闘可能な部隊)が国境を越えられる地点が、およそ12カ所ある」と述べる。

クッコラ氏は続けて、「新しい鉄道駅が建設されたり、古いものが改修されたりしているのが確認できた場合には、注意を払ったほうが良いだろう」と警鐘を鳴らした。

専門家らはロシアの一連の動きを、今後起こりうる対決への布石だと分析している。ロシアの軍事アナリスト、ルスラン・プホフ氏は同紙に対し、「過去10年の流れから判断すれば、我々(ロシア)はNATOとの衝突を視野に入れている」との見解を明らかにしている。

兵力を1.5倍に、軍事予算を拡大するプーチン政権

プーチン氏は戦力の強化を急いでいる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、最新鋭T-90M戦車の生産台数が年間40台から300台へと急増しており、これらはウクライナ戦線に投入されることなく、国内に温存されていると報じた。

ロシアは軍事インフラだけでなく、人員と装備の拡充にも巨額の資金を投入している。軍事費は戦前から急激に膨らんでおり、2025年には国内総生産(GDP)比6%を超え、戦前から実質的に倍増する見通しだ。アメリカの3.4%、EU諸国平均の2.1%を大幅に上回る水準となる。