「他流試合」をこなすことの重要性

財務省による公文書の改竄(かいざん)、文部科学省の局長が息子を裏口入学させていたなどの一連の不祥事を受けて、官僚の「劣化」がいわれます。ただ、私自身は、士気が低下して、公のことを考えない官僚が増えたかと聞かれれば、あまりそうは思いません。むしろ多くの官僚は、まじめで、仕事熱心で、職務を忠実に、一所懸命こなそうと思っている。そうした人たちが、自分たちの「物差し」のずれに気づかず、しかも、何を糾弾されているかがわかっていなさそうに見えるところに、問題の根深さを感じます。

村木厚子『日本型組織の病を考える』(角川新書)

この点、コンプライアンスが厳しく問われるようになった民間企業の方が、物差しのずれに敏感で、対応が役所よりも進んでいます。企業でもデータの改竄や、食品表示や品質データの偽装など、たくさんの不祥事が起きています。

コンプライアンスを厳しく突かれ、いや応なく、外部のチェックを受ける機会が増えています。また、経済のグローバル化が進み、社外取締役は当たり前ですし、海外投資家の目にさらされる機会も増えています。

この外の世界、外部の目にさらされるというのが、とても大事です。外からの洗礼を受け、「他流試合」をいくつもこなすうちに、自分たちの本音がいかに世間とずれていたかに気づく。外の空気に触れることが、結果的に、組織を守ることにつながります。

公務員こそダイバーシティーの推進を

現在、企業が必死で取り組んでいる「ダイバーシティー(diversity)」の推進も役に立ちます。

ダイバーシティーは「多様性」を意味する英語で、異なった考えや価値観、行動様式を持った人たちと時間や空間を共にし、異質な文化に触れることです。そうか、こんな考えがあったのかと、ショックを受けたり、感激したりします。同じようなタイプの人間ばかりが集まっている組織では、味わえないものです。自分たちが日頃馴染(なじ)んでいる社会はごく狭いテリトリーですから、異質な人や考えに触れ合っておくことは、社会全体を理解することに役立ちます。

ダイバーシティーの推進は、かなり手間がかかりますし、簡単なことではありません。むしろ相当、面倒なことだといっていいと思います。ですが、同質型の組織や社会が陥りがちな「落とし穴」をふさぐことに大いに役立ちます。官民の交流人事などはとりわけ効果的。民間の方々に、公務員の頑張りも理解していただけるでしょうし、公務員は「世間」が広がると思います。

村木厚子(むらき・あつこ)
津田塾大学客員教授。1955年高知県生まれ。高知大学卒業後、78年、労働省(現・厚生労働省)入省。女性や障害者政策などを担当。2009年、郵便不正事件で逮捕。10年、無罪が確定し、復職。13年、厚労事務次官。15年、退官。困難を抱える若い女性を支える「若草プロジェクト」呼びかけ人。累犯障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」顧問。伊藤忠商事社外取締役。津田塾大学客員教授。著書に、『あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ』(日経BP社)、『私は負けない 「郵便不正事件」はこうして作られた』(中央公論新社)などがある。
(写真=iStock.com)
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