企業の採用現場で「体育会系」の学生への逆風が吹きはじめた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は、「原因は日大アメフト部の悪質タックル問題だけではない。人事担当者は『体育会系の新人は、体力はあるが、メンタルが弱く、何の予兆もなく会社に来なくなるケースが多い』と口をそろえていて、評価が急落している」という。なぜ、体育会系は打たれ弱くなったのか――。

企業の採用現場で「体育会系」の学生への逆風が吹きはじめた

今年5月、日本大学アメリカンフットボール部の選手が関西学院大学との定期戦で悪質タックルをした問題が明らかになって以降、監督・コーチの独裁的かつ横暴な姿勢に世間の非難が集中している。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ChrisChrisW)

その矛先は、上位の者に逆らうことが許されない絶対服従の体質を持つ「体育会系運動部のあり方」にまで向けられている。

これまで企業は体育会系の人材を高く評価してきた。その理由は、まさに「絶対服従」という部分にあった。体育会に入ると、上級生の命令は絶対的なものになる。たとえ間違っていても耐えながら従うしかない。そうした世界を生き抜いてきた学生は不条理だらけのビジネスパーソンとしての耐性を備えている、というのが企業の評価基準だった。

IT企業の人事部長は日大のアメフト部に対する世間の見方に違和感を抱いている。

「(関学戦での)日大選手のタックルはやり過ぎの面はありますが、ときにはプレーに乗じて相手を張り倒すようなことはよくある話。アメフト経験者なら大概はそういうことをやっているのが現実です。ただ今回の日大の場合は、やり方が下手くそだった。問題はそこだけを取り上げて服従や上意下達の体質が悪だからやめようということになってしまうと、結局、ヒエラルキー構造から誰もが平等のフラット型組織になってしまう。それではサークルと変わらないし、体育会系学生の魅力は何もありません」

試合時の暴力を肯定しているとも受け取られかねない発言だ。しかし、この人事部長は暴力を肯定しているわけではない。企業が体育会系の学生に期待するのは、打たれ強いという耐性を備え、上から理不尽なことを言われてもぐっとこらえて仕事を遂行できるねばり強さにあるということだろう。体育会はそれを培ってくれると期待している、というわけだ。

ストレス耐性の弱い体育会系の学生が増加

ところが、昨今はそんな体育会系出身でも、ストレス耐性の弱い学生が増えているという。サービス業の人事部長はこう語る。

「私自身、体育会系の学生というのは、礼儀正しく、根性と体力があって、すぐにチームに溶け込んで仕事ができるというイメージを人事の先輩たちから刷り込まれてきました。社会人としての基礎力があり、どこに配属しても務まるという鉄板的な人材という位置づけでした。でも、数年前からそうではない人が増えている。配属後に現場の責任者から『なんだ、あいつは全然使えないじゃないか、この前、大声で叱ったら、あれから出て来ないぞ』と言われて驚きました」