●業績向上につながらない
人事考課は個々人の仕事ぶりをチェックし、(理論上は)彼らにもっとよい仕事をしようとする意欲を起こさせるものだ。しかし、個人のパフォーマンスが組織のパフォーマンス向上のカギになることはめったにない。「ほとんどの問題、ほとんどの改善の機会は、個人やグループではなくシステムやプロセスにある」と、『Total Quality Versus Performance Appraisal, Choose One』(1992)の著者で、人事考課批判の先頭に立ってきたピーター・R・ショルツは述べている。ショルツは、故W・エドワーズ・デミングの考え方を受け継いで、ほとんどの人間がよい仕事をしたいと思っており、お粗末なシステムや労働環境がその足枷になっていると考えている。彼の結論は「人ではなくシステムを直そう」「個々人の仕事ぶりではなく、作業グループや事業部の成果でパフォーマンスを評価しよう」である。
企業はこれまで、社員に目標を設定させて、それを評価の基準に使うなど、評価プロセスをいじくり回してきた。コーエンズやジェンキンスなどの批判者は、こうした改変にも厳しい目を向け、次のような問いを投げかけている。社員が自分の目標を達成しなかった場合、それは彼らの責任なのか、それとも、彼らをとりまくシステムの責任なのか。社員が自分の宣言した目標を実際に達成した場合、彼らは無意識のうちに他の目標を犠牲にしてきたのではないだろうか。今必要なことに自分の行動を合わせるのではなく、6カ月か9カ月前に決めたことに闇雲にしがみついてきたのではないだろうか。
そうはいっても、人事考課をやめるにあたっては、根強い懸念がある。マネジャーはフィードバックをまったくしなくなるかもしれない。社員の意欲や能力開発に悪影響が出るかもしれない。かえってパフォーマンスが低下するかもしれない。昇給や解雇の根拠となる記録がなくなる、等々。
実際に年毎の人事考課を廃止している企業もあるが、それはたやすい道ではない。会社はフィードバックから報酬までのさまざまな分野で社員への対し方を変えなければならないからだ。