そういった悪循環に陥らないように、当センターでは、福井ベンチャーピッチの運営と並行して、ベンチャー人材の育成にも積極的に取り組んでいる。たとえば、上場企業の社長や先輩経営者らの協力を得てベンチャー企業向けの経営塾を開催したり、地元の官民ファンド運営会社の協力を得てベンチャー企業のビジネスモデルのブラッシュアップの機会を設けたりしており、反響も上々だ。

運営している経営塾の中から、さっそく次回のベンチャーピッチの登壇企業が誕生するなど、ベンチャー人材育成の好循環が生まれつつあることを実感している。

企画当初は、「福井でやる意味がわからない」とまで言われていたが、福井ベンチャーピッチを聴講した若い創業者の中から、「こんな世界があるなんて知らなかった」「いつか福井ベンチャーピッチに出たい」など、ピッチ登壇に意欲を出す前向きなコメントをもらえるようになった。今後は福井の若い創業者からも、登壇企業が数多く誕生するのではないかと期待している。

先輩経営者による経営塾の様子

「地方だからできない」とあきらめることは何もない

福井県という日本地図を見てもどこにあるのかピンとこないような田舎で、昨日までピッチイベントの存在すら知らなかった素人の女性職員が、ベンチャー支援に体当たりで取り組んでいる。

地道な活動を続けていくうちに共感の輪が広がり、「福井を盛り上げたい」という思いが核となって、先輩経営者やベンチャー支援者が集まり、オール福井でベンチャー企業を応援しようとする好循環が生まれたのだ。

地方だからできないとあきらめることは何もない。私はこれからも、福井発のベンチャー企業の可能性を信じて、この仕事に全力で取り組んでいきたい。

岡田 留理(おかだ・るり)
公益財団法人ふくい産業支援センター職員/特定社会保険労務士
福井県生まれ。同志社大学卒業後、勤めていた職場を出産を機に退職。子どもが1歳の時、社会保険労務士試験にチャレンジし、合格。翌年、個人事務所を開業。経営と育児と家事を両立させながら、中小企業の顧問社労士、労働局の総合労働相談員、人材育成コンサルタントなどに取り組む。2015年4月に公益財団法人ふくい産業支援センターに入社。県内の創業・ベンチャー支援業務を担当し、現在に至る。
(ふくい創業者育成プロジェクト http://www.s-project.biz/
(写真=iStock.com)
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地方を変えるのは巨大計画より小さな店だ