いま都市圏では「ベンチャー投資」がブームになっている。だが地方ではそうした動きは鈍い。昨年、10年ぶりに上場企業が生まれた福井県では、地方にも投資を呼び込もうと「後継ぎベンチャー」の育成に乗り出している。顧問企業の倒産を経験し、ベンチャー支援に転進したという元開業社労士の女性が、その取り組みを報告する――。

どうすれば全国に打って出る企業が生まれるのか

私が所属する「公益財団法人ふくい産業支援センター」は、県内の中小企業支援を担う福井県の関連団体だ。私は今の職場に入社する3年前まで、自分で社会保険労務士事務所を開業していた。キャリアチェンジのきっかけは、6年間顧問社労士を務めた中小企業の突然の倒産だった。新たな事業展開を盛り立てられなかった自分の無力さに悩み、同じような課題を抱えた中小企業が他にもたくさんあるのではないかと考え、今後は県内の中小企業の経営支援に注力しようと決断した。

入社後は、自身が創業者だった経験を買われて、当センターの新たな事業「ふくい創業者育成プロジェクト」の立ち上げを任された。もともと好奇心旺盛な性格なこともあり、私なりの方法でこの新しい事業の立ち上げに全力で取り組んだ。

プロジェクトは一定の成果をあげることができたが、プロジェクトを経て創業した企業は県内をマーケットにした事業が多数を占めていた。次第に「全国に打って出るような力強いベンチャー企業を福井県でもっと創出するためにはどうすれば良いか」と考えるようになった。

流出した若者を呼び戻せるベンチャーの創出ねらう

福井県では、若者が地元を離れて都会に流出することによる過疎化が深刻化している。野心のある若者の多くは都会を目指し、成長意欲の高いベンチャー企業は生まれにくい。一方で、既存の地場産業も後継ぎ不足に悩む企業も多く、何か手を打たなければ、この先の地域経済が衰退していくのは明らかだ。

「福井ベンチャーピッチ」の様子

そういった危機感の中で福井県は、新たな事業「福井ベンチャーピッチ」を予算化。当センターがその立ち上げを託され、私はその担当者になった。ピッチイベントとは、成長意欲の高いベンチャー企業が、自社の魅力や将来性についてベンチャーキャピタルや金融機関などの前でプレゼンテーション(ピッチ)し、資金や事業提携などにつなげることを目的としたイベントだ。

福井県でピッチイベントを開催することで、県内で頑張るベンチャー企業を支援することはもちろん、県外に流出した若者を呼び戻せるような魅力あるベンチャー企業を創出することがねらいだ。