「福井でピッチイベントをやる意味がわからない」

一般的にベンチャー企業、スタートアップ企業といえば、短期間で急速に成長する創業間もない企業を指し、その多くは新しい技術やビジネスモデルを核にして全国展開を目指す。しかし福井県は、新規開業率が全国平均を大きく下回るなど創業活動は活発とはいえず、際立ったビジネスモデルを持つ若者の多くもまた県外に流出しているのが現状だ。

一方で、福井で創業した若い経営者にピッチイベントの地元開催への期待をたずねても、「福井でやる意味がわからない」「ピッチに出たかったら東京へ行けばいいだけだから」と冷めた反応が返ってくることもしばしばあった。

ピッチイベントの企画に着手した途端に現実の壁にぶち当たり、私はすっかり困り果てた。スタートアップの若者が途切れなく登壇して熱く盛り上がる都会のピッチイベントのような青写真を描けるわけもなく、かといって地方特有のコアなターゲットも見つけられない。

福井のような田舎でわざわざピッチイベントを開催する意味など、本当にあるのだろうか……焦りと不安が募っていった。

10年ぶりの上場企業の衝撃

そんな悩みを抱えていた2017年7月、福井県で上場企業が誕生した。福井市内で業務用ユニフォームの通販業を営む「ユニフォームネクスト株式会社」だ。現社長の横井康孝氏は、大学卒業後に民間企業勤務を経て、1997年に父親が経営する従業員3人の会社に入社した“後継ぎ経営者”だ。

2017年9月に上場したユニフォームネクスト株式会社

同社は、横井社長が2007年に事業を継いだタイミングで、業務用ユニフォームのネット販売に挑戦。徹底的にターゲットを絞り込んでニッチトップを目指すウェブサイト作り、商品に精通したスタッフによるきめ細やかな電話サポート、巨大な倉庫に豊富な在庫を確保することで可能にした受注から納品までのスピードを強みに、後発ながらも業界トップに躍り出て、マザーズ上場を果たした。