「一番の元凶は日本の学校教育制度にある」

【桑原】学校や会社でも、私たちはノンオフィシャルな場で雑談を交わすことで、人間関係を培い情報を集めますよね。そこが苦手というのは、結構大変なことなんですよ。

桑原 斉(くわばら・ひとし)●精神科医 1974年生まれ。東京学芸大附属高校、東京大学医学部卒。東大病院を経て現在、本郷東大前こころのクリニック、メンタルクリニック・ダダ勤務。やさしい人柄から発達障害児の保護者の人気を集める。

【茂木】でも一方で、僕はさまざまな業界のトップランナーの方にもお会いしてきましたが、何かを成し遂げる人というのは、やはりどこか規格外の人が多いですよ。約束の時間から必ず1時間は遅刻する、会社のパソコンを年に3回なくす、思ったことをいって炎上するなどさまざまですが、彼らがそういった面を幼少期から直そうと暮らしてきたら、今ある彼らの成功はあったのかなと思うんです。まつもとゆきひろという世界中で使用されている「Ruby」というプログラミング言語の開発者がいますが、学校時代の数IIIの成績は1だったそうです。

【桑原】どこかの分野は突出してすごいけど、ほかの分野が全くダメという人に、どこまでオールマイティに社会に適応すべく頑張る必要があるのかということですね。

【茂木】結局僕は、一番の元凶は日本の学校教育制度にある気がしてならないんです。勉強についていけない子、逆に学校の勉強が簡単すぎてつまらない子、そもそも学校という場の集団行動になじめない子、彼らを無理に「普通」にする努力を学校や親はしますけど、そんなのは無駄な努力で、さっさとホームスクーリング(学校に通わず、自宅を中心に学習すること)などほかの選択肢に切り替えたほうがいいんですよ。

【桑原】昨今は障害のある子も通常学級でみんな一緒に勉強していこうという「インクルージョン教育」も提唱されていますが、一見いいように見えて、当人にとってはメリットより弊害のほうが大きいこともありえます。どのような教育環境が本人にとって適切かは簡単にはわかりませんが、十分な情報に基づいて本人や家族が選択できることが重要じゃないかと思います。

【茂木】みんな一斉にヨーイドンでスタートし、みんな一緒にゴールインしようという日本社会ならではの同調圧力が教育現場にもはびこり、大人になっても苦しんでいる人は多いと思う。だってアメリカでは、学校ではなく自宅で勉強する子は200万人単位でいて、むしろオーダーメードの教育を選べることでアイビーリーグに合格する優秀な人間もたくさん出ていますよ。飛び級や留年も普通ですしね。同学年が一斉に同じ速度で歩んでいくという“理想”はむしろ特殊で奇異ですよ。

【桑原】2017年“障害者差別解消法”が施行され、発達障害を含め学校教育などで合理的配慮が必要な人に対しては学校側がきちんと対応することが義務付けられました。本人の努力だけでなく、むしろ環境を調整して、本人の能力を十分に発揮できるようにしようというのがその主旨です。

【茂木】教育・働き方・生き方、もっと柔軟な多様性が必要ということですね。アインシュタインはもともと天才だった。ASDだろうとなかろうと。彼の特性を無理に抑え込んでいたら、もしかしたら相対性理論は生まれなかったかもしれない。

▼発達障害(神経発達症)は主に3タイプ
ASD:自閉スペクトラム症
SLD:限局性学習障害
ADHD:注意欠如・多動性障害
先天的な脳機能の特徴により、強いこだわりや独特のコミュニケーション、感覚過敏などの特性がある。
(文=三浦愛美 撮影=横溝浩孝)
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