偏りがあっても、ほかでカバーできれば「障害」ではない

【茂木】確かに自分でいうのもなんですが、勉強は抜群にできました。授業は全く聞いていませんでしたけど(笑)。だから多少変わり者でも、「できる奴」でやってこられたのかも。でも僕自身理学部卒業で、理系の大学で教えたりしていましたが、似たようなタイプは多かったです。好きな女の子の前で自分の研究を滔々と語って止まらない奴とか(笑)。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)●1962年生まれ。東京学芸大附属高校、東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』で第4回小林秀雄賞受賞。近著に『すべての悩みは脳がつくり出す』(ワニブックスPLUS新書)。

【桑原】発達障害のことを僕らは神経発達症と呼びますが、その診断基準の「DSM‐5」には非常に重要なことが記されています。それは「その症状で本人が困っていれば診断する」ということです。だから例えば茂木さんのように、致命的な偏りがあっても、ほかの能力でカバーできていれば「障害」ではないんですよ。

【茂木】今、「致命的」とおっしゃいましたね(笑)。僕、先生のところに診療に行ったほうがいいかも。

【桑原】先生が診察に見えても、僕はこういいますよ。「困っていないから診断は必要ないです」と。

【茂木】でも困っていますよ。僕は会議や資料の存在意義がわからず、興味もないからほとんど聞いていない。人から「いったじゃない」といわれても、記憶にないことは多いです。

【桑原】そこで謝れます?

【茂木】もちろん、そこは謝りますよ。

【桑原】なら大丈夫です。困った事態になりそうでも、ちゃんと対処する術を身に付けていれば問題ないです。

【茂木】面白い。そういうことか! 僕はアインシュタインが大好きなんですが、彼は5歳過ぎまでほとんど喋れなかったそうですね。学校生活にもなじめず、大人になっても奇行が多かった。現代なら完全に困った奴ですが、でも実はそんな面があったからこそ、強烈な創造性を発揮できたのではとも思うんです。

【桑原】アインシュタインがASDだろうというのは有名な話ですが、彼はASDでなくても相対性理論にたどり着けたのか。コミュニケーションの不得意さや強いこだわりがあったからこそ、当時の常識を無視して能力を発揮できたのか、あるいは天才ゆえにASDの特徴があっても関係なく成功できたのか。本人を診察できない以上、真実はわかりません。

【茂木】彼はまだ喋れないときに、大人の会話をじっと聞いて、自分の中でリハーサルしていたと語っています。これもASDの特徴ですか?

【桑原】それはむしろ対処法ですね。SST(ソーシャルスキルトレーニング)といって、臨機応変な対人関係が苦手なASDの人向けにロールプレイなどを用いてトレーニングするんです。でも、それを自ら編み出して1人で実践するというのは、やはり天才ですよ。

【茂木】結局脳の役割って「適応」じゃないですか。アインシュタイン少年が自ら適応方法を編み出していたというのは、ちょっと感動的ですね。