ドンキは、チェーンストアでありながら、商品仕入れの権限を店長に大胆に委譲し、個店経営を貫いている。成果主義も徹底しており、店長は自店の業績がよければ、1000万円の年収も夢ではないが、業績が悪ければ、降格もやむなしという厳しさだ。それゆえ、売り場づくりや品揃えは、店長の考えがダイレクトに反映され、店舗ごとに全く異なる。店によっては値札に競合店の名前や価格まで入れて自店の安さを訴求するなど、えげつないアピールも厭わない。また、大型店が手薄なナイトマーケットにも強く、インバウンドの観光客に「夜の遊び場」を提供する役割も果たしている。

そして、アウトレットの服飾雑貨、賞味期限切れ寸前の食品などタダ同然で仕入れた「スポット商品」を、叩き売りするのも得意だ。スポット商品は全体の約40%を占め、そうした目玉商品が、商品を所狭しと並べる「圧縮陳列」で売り場のあちこちに集積されているので、商品選びには宝探しのような楽しさがある。近年のGMSが失った、客を1階から上階へと吸い上げる力を持っていると言えよう。

個店経営や圧縮陳列には手間がかかるので、店舗運営コストは高いはずだが、営業利益率は近年5%以上を維持しており、小売業界では優等生ともいえる高さ。それはスポット商品の粗利益率が高いことにくわえ、納入業者が積極的に店舗運営をサポートしている背景もある。いざというときに余剰商品を仕入れ、売り切ってくれるドンキを、サプライヤーも頼りにしている。ダイエー創業者の中内功氏は、かつて「売り上げはすべてを癒す」という言葉を残したが、まさに今のドンキがそれを体現しているのではないだろうか。

今後の出店を左右するのは「人材」

ドンキは、流通業界では独特のカルチャーを持っているので、ほかの小売業は簡単には模倣も、追いつくこともできないだろう。したがって、ドンキの一人勝ちは当面続くと考えられる。とはいえ、ドンキの大量出店が今後も続くかといえば、それは不透明だ。

これまで背に腹は代えられず、ドンキのソリューション出店を受け入れてきた流通業界にも、ドンキの勢力拡大に警戒心が広がっており、店舗を譲らない小売業もあると聞く。ユニーの200店舗も、ドンキに転換される店舗は限られるだろう。ドンキは、若年層が多いエリアや深夜営業ができる繁華街、車で来店できる利便性の高い立地を好むが、ユニーの既存店は必ずしもそうした条件に当てはまらないからだ。また、GMSよりも大きなショッピングセンター(SC)などの超大型店の居抜き物件が出ることも予想されるが、ドンキにはテナントを運営するノウハウがないため、今のところ出店は難しいだろう。

店舗の建物があっても、運営するスタッフがいなければ、出店はできない。ドンキ流の個店経営や圧縮陳列は、一朝一夕では身につかないため、人材の育成には時間がかかる。創業者の安田氏は、「胆力」を示す言葉として「はらわた」という表現を好んで使った。小売業界の人手不足がますます深刻化する中、「はらわた」を備えたスタッフをどれだけ確保できるかが、今後の出店戦略を左右するに違いない。

栗田晴彦(くりた・はるひこ)
流通情報誌「激流」編集長
1971年、国際商業出版入社。セミナー企画、単行本制作を経て、80年、「国際商業」編集部。85年、流通情報誌「激流」編集部。90年、「激流」編集長。2001年、代表取締役に就任。
(構成=野澤正毅 写真=iStock.com)
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