凶悪犯からヤクザまで、あらゆる強者に口を割らせた元検事で弁護士。40年以上にわたる法廷バトルで体得した驚きの対話術とは――。
「なぜ、もっとうまく言えないのだろう」
「これだけ証拠が揃っていて、目撃者だっている。これはもう、きみがやったとしか考えられない。どうなんだ、本当のことを言ってくれよ」
被疑者の20日間の勾留期限が明日で切れるという日。新人検事だった私は否認を続ける相手に対して、これまでに何度も投げかけた言葉をまた繰り返していました。「なぜもっとうまいことが言えないんだろう」と自分でも情けない。でもほかに何と言っていいかわからない。
すると被疑者が静かに口を開いて、こう言ったのです。
「検事さん、私がやりました」
相手の気が変わらないうちに慌てて調書をとったあと、私は彼に、「いったいどういうわけで自白する気になったの?」と聞いてみました。
「いや、検事さんがさっき部屋に入ってきたときの顔を見たら、これは嘘をついちゃいかんと思いました」
確かにその日の私は追い詰められていました。当時の刑事部長は、今ならパワハラといわれるような軍隊式のやり方で部下を鍛える鬼のような人物。その部長から、「なぜこの程度の事件の自白がとれないんだ。もう1度調べ直してこい」と命じられていたからです。