会社の経理部員や人事部員たちは、何を考え、どこを見ているのか。お金の問題を甘く見ていると、「想定外」の落とし穴に落ちることもある。「プレジデント」(2018年3月19日号)では、11のテーマについて識者にポイントを聞いた。第7回は「会社貸与の端末紛失」について――。
会社貸与の携帯電話、スマホ、タブレット端末、ノートPCを紛失
会社から貸与された業務用の携帯電話やスマホ、タブレット端末、ノートPCなどをうっかり失くしてしまった。さて、当の社員はその損失を弁償しなければならないのだろうか。
会社は社員に損害賠償を求める権利を有する。しかし、全額の賠償が認められた判例は少ない。というのも、会社はそれらの貸与によって業務を遂行して利益を得ているし、紛失するリスクも承知のうえでの貸与だと見なされているからだ。
仮に業務規則や貸与規則に、備品の紛失や破損した際の賠償金額が規定されていたとしても、法的にその規定は無効である。労働基準法の第16条で、労働契約の不履行に対する違約金や損害賠償額をあらかじめ規定することが禁じられているからだ。
とはいえ、故意や重大な過失による場合ではなく、うっかりミスによる紛失や破損でも、当の社員には過失責任がある。通例では常識的な範囲で、会社と社員の双方が責任を分担する形で収められる。その割合はケースバイケースだ。
備品の紛失や破損で、会社が社員に賠償請求をした過去の判例がある。会社所有のタンクローリーを社員が運転、破損した事例だが、裁判所は、会社側が自動車保険に加入していなかった点を重く見て、社員への請求は実際の損害額の4分の1の限度にとどまった。
▼社員が「会社所有物を損じた」裁判例
(最高裁1976年7月8日判決、事件番号昭49(オ)1073号)
損害賠償請求事件[茨城石炭商事事件・上告審]
社員が運転する会社所有のタンクローリーが、前の車に衝突し破損
(原因●前方不注意、車間距離不保持)
社員が会社から訴えられる(損害賠償金額&求償金額●計41万1050円)
判決:「損害額の1/4を限度とすべき」
理由(1)会社が対物賠償責任保険及び車両保険に加入していなかった
理由(2)タンクローリーを運転するのは臨時のみだった
理由(3)勤務成績は普通以上だったetc
(民訴法401条、95条、89条に依拠)