会社の経理部員や人事部員たちは、何を考え、どこを見ているのか。お金の問題を甘く見ていると、「想定外」の落とし穴に落ちることもある。「プレジデント」(2018年3月19日号)では、11のテーマについて識者にポイントを聞いた。第8回は「馬券を経費申請」について――。
外れ馬券が経費として認められる競馬のやり方
2017年12月、北海道の男性が、所得税の申告で外れ馬券の購入費を経費として認めるよう求めた行政訴訟の上告審判決があった。上告は棄却、約1億9000万円の追徴課税の処分は取り消され、男性の勝訴が確定した。
もともと競馬は浪費と見なされ、配当は、営利を目的とする継続的な行為から得た所得以外の所得、「一時所得」とされてきた。所得の中で棚ボタゆえ経費はかからないことが前提であり、外れ馬券の購入費は、経費として認められなかった。
しかし、この男性が独自のノウハウで6年間に上げた利益約5億7000万円は、営利目的で得る「雑所得」と見なされた。ここまでくれば浪費ではなく投資。それゆえ、外れ馬券も経費として求められたのだ。
外れ馬券をめぐっては、別の男性が自ら改良した競馬ソフトで5年間に35億円を売買して得た1億5500万円の利益が一時所得と見なされて、所得税と無申告加算税、地方税、延滞税で計10億円の支払いが発生した件がある。私の担当案件だが、2015年に最高裁が「営利目的で継続的に購入した場合、算入できる」とする初の判断を示して支払いは取り消し。判決後は国税庁が通達を改正し、外れ馬券を経費計上できるとした。
ところが、税当局の判断はネット取引と競馬ソフトを使って恒常的に儲けている場合に限られている。冒頭の件の男性はソフトを使っていないが、判決後も通達は変更されていない。
年50万円を超える一時所得は課税される。競馬の配当でそれだけ儲けていれば、本来は申告すべきだが、馬券の払い戻し窓口で身分証明書の提示を求められることはなく、わざわざ申告する人はまずいない。