「老後破綻」必至なのに離婚に踏み切った事情

淳二さんの老後を考えると、働いている間は何とか生活できても、定年後は厳しいでしょう。退職金は親に肩代わりしてもらった住宅ローンの返済や先々の妻への支払いに消えてしまうはずです。貯蓄をつくる余裕はなく、老後破綻する可能性が高いといえます。それでも条件を受け入れたのには、事情がありました。

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淳二さんが離婚を切り出したとき、妻は「子供が小学校を卒業するまでは離婚しない」と断りました。当時、淳二さんの長女は小学4年生。妻が提示した「離婚リミット」まではあと2年間ありました。しかし淳二さんは「2年も待てない。今、決めてほしい」と妻に詰め寄りました。

淳二さんが突きつける。妻が断る。そんな応酬は半年ほど続きました。そしてうんざりした妻が、「どうしてもと言うのなら」と「10年で3100万円超、50余年で9300万円超」という条件を出してきたのです。

私が思うに、妻もまさか夫が、「家のローン(月10万円)」も「生活費(月10万円)」も「長女の養育費(月6万円)」も払うとは思っていなかったのでしょう。離婚に同意したくなかったので、非常識な条件を吹っかけただけなのです。ところが、淳二さんはそれを真に受けて「言う通りに払う」と言い出したのです。

▼なぜ、吹っ掛けてきた妻の要求を受け入れたのか?

なぜ、淳二さんはこのような条件を受け入れたのでしょうか? 当時、淳二さんのなかで優先順位はこうなっていました。

「離婚成立>お金」

つまり、離婚できるのなら、いくらお金を払ってもいいということです。正常な感覚を持った人間なら、こうはなりません。当たり前ですが、買い物をするときは財布の中身と相談します。お金が入っていないのに、買い物をする人はいません。しかし、淳二さんはそれをやってのけたのです。「離婚をお金で買う」ということを決断したのです。

淳二さんほどの巨額な契約は珍しいですが、離婚の現場では「離婚をお金で買う」という場面にはよく遭遇します。「札束を積んで、離婚の同意を引き出す」というのは、最終手段としてしばしば用いられるからです。