通貨の自由競争がついに始まった

ここ数年、50円以下の小額貨幣が減っているという。

小銭ほど少なくなっている!
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小銭ほど少なくなっている!

日本銀行によると、2005年7月の硬貨流通枚数は915億7000万枚。前年同月比0.05%減と、初の減少に転じた。この変化をいち早く読み取り、07年5月にレポートを発表した第一生命経済研究所の熊野英生さんはいう。

「1円玉から50円玉までの小額貨幣の減少は釣り銭需要の低下を意味します。いい換えれば、貨幣を用いた決済の回数が減っているんです。実際に消費マインドとコイン流通高には明らかな相関関係が見られます」

ただし、100円玉と500円玉は減少傾向にあるとはいえ、伸び率自体は堅調に推移している。なぜ50円以下の小額貨幣に限って減少が顕著なのだろうか。熊野さんは普及の進む電子マネーがその主因ではないかと分析している。

「電子マネーの発行枚数の増加が顕著になったのは04年から。貨幣の伸び率の鈍化とほぼ重なっています。私の試算では貨幣数量全体の0.7%にあたる6.4億枚が電子マネーで“節約”されていますね」

貨幣には重くてじゃらじゃらするという使い勝手の悪さがある。一方、Suica(スイカ)やPASMO(パスモ)、Edy(エディ)といった電子マネーならば一枚で済むうえ、ポイントまでつく。使える場所も急速に増えつつあり、貨幣の「ライバル」として存在感を増してきている。熊野さんは「ついに貨幣の競争が始まった」と見る。

「政府発行の貨幣が完全になくなることはありません。ただし、オーストリアの経済学者ハイエクの唱えた『貨幣発行自由化論』が、電子マネーの普及で夢物語ではなくなった。ハイエクがいうように、通貨発行であっても、民間企業の競争が消費者の便益を高めます。たとえばポイントの付与は一種の『利息』で、競争による便益還元といえます」