「定義を知らない」が誤解のもとに

誤解しやすい天気予報の数字
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誤解しやすい天気予報の数字

「降水確率予報は1980年代に始まりましたが、その数値の意味については誤解が多いようです」。NHKで長く天気キャスターを務めてきた気象予報士、村山貢司氏が解説する。

「降水確率50%とは『その地方の半分で雨が降る』ことではなく、『その地方全域で1ミリ以上の雨が降る確率が10回中5回ある』という意味です」

「今日の降水確率は50%」と聞くと、「今日、雨が降る確率は五分五分」と普通思う。しかし実際に雨に遭う確率はそれよりかなり高いのだという。

「まず、降水確率では『地面がかすかに湿る程度』と表現される、雨量1ミリ以下の雨が含まれません」

1ミリ以下の小雨が降る日数は、それ以上の雨が降る日数よりもむしろ多い。仮に小雨まで「降水」とカウントした場合、降水確率は一気に跳ね上がる。

「また予報対象となる地方の一部に雨が降っても、ほかの地域で降らない場合、降水確率上は降雨にカウントされません。1つの地方の中にも雨が多い地域と少ない地域があって、東京なら奥多摩地域は東京地方全体の降水確率予報よりずっと雨が降りやすいのです」

予報が当たったかどうかについての考え方も、一般人と予報士では異なる。たとえば降水確率30%の日が3日続き、その3日間すべてで雨が降ったとする。普通は「確率5割以下なのに雨が降った。しかも3日も続くなんて、予報は外れだ」と思う。しかし予報士は違う。3日続けて雨が降ったとしても、その後に同じ条件で7日間降らない日が続けば、降水確率は30%となり「予報的中」となるのだ。

「イチロー選手は3割打者で、年間を通じて見れば、ほぼ3打席に1回、ヒットを打っていますね。けれどもある試合で2打席連続凡退したから、次は必ずヒットを打つかというと、そうでもありません。天気予報もそれと同じです」

天気予報には数値による降水確率のほか「曇りのち雨」というような、文章による伝統的な予報もある。「こちらでは雨量1ミリ以下でも『雨』と見なされます」というから要注意だ。

また、天気予報における「一時」とは「時間が全体の4分の1未満」の意味であり、その日の天気の予報が「曇り一時雨」であれば、1日を朝6時から夕方6時までの12時間として、「曇りが9時間以上、雨は3時間未満」であることを示す。

「似た表現に『時々』があります。こちらは時間が『一時』より長く、全体の4分の1以上、2分の1未満の場合です」

その日の天気の予報が「雨時々曇り」なら、「12時間中、3時間以上6時間未満の間、雨がやむ」ことを意味する。

常識とは少し違う「気象庁用語」に注意

常識とは少し違う「気象庁用語」に注意

「言葉による予報と降水確率予報は分けて考えてください。雨に対する予報が2通り出ているのは、それぞれの性格が異なるから。降水確率は、もともと経済的な機会損失を抑える目的から生まれた予報です。言葉による予報と組み合わせ、正しく使いこなすことが必要です」

村山氏自身は外出時、気象庁のホームページにある「降水短時間予報」をよく利用する。「レーダー観測による雲の変化を動画で見ることができるので、行きたい場所の近くにある雨雲の動きを確かめ、雨になるか予想するのです」

素人が気象用語の正しい意味も知らずに「予報が当たらない」と怒っているとき、プロはピンポイントの雨雲の動きを確かめて行動するのである。

(坂本道浩=撮影)
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