店も顧客もメリットを享受
紳士服量販店では1着4万~5万円するスーツを2着買うと、2着目が半額とか、9800円、ときには1000円という値段になることがある。
どうしてそんなに安く売れるのだろうか。「よほど原価が安いのだろう」とか「もともと定価が高すぎるのではないか」と疑問に思うかもしれないが、実は経済学の原則からすると実に合理的な商法なのだ。
そもそも、紳士服の小売りは非常に販売効率が悪い。一定の広さの売り場が必要で、サイズ・色・柄など製品の種類をたくさん用意したうえに、試着やら裾上げやら、売るまでに店員の手間がかかる。しかも、平日の昼間はほとんど来客がないのに、店員を置いて店を開けておかなければならない。
服自体の製造原価はさほど高くはないと思われる。しかし、売るための店舗家賃、人件費、光熱費、宣伝費などが相当かかる。そのため、1着4万円でも利益率は意外と低いはずなのだ。ところが一度に2着以上売れるとなると、話は全く違ってくる。実は4万円で売る1着目より、9800円で売る2着目のほうが多くの利益を会社にもたらすのである。
実は経済学の「追加コスト」の考え方で、そのことを説明できる。追加コストとは商品を余分に作ったり、売ったりするときに追加で必要となるコストのことだ。専門的には「限界費用」と呼ばれている。
例えば、ディナーの平均単価が3000円というちょっとおしゃれなレストランが、980円でランチを始めるとしよう。ディナーと同じ質の食材を使い、家賃、人件費、光熱費、宣伝費などの「平均コスト」を計算すると、980円では赤字になる。しかし、この場合、すべてのコストを含めた平均コストで考えるより、「追加コスト」で考えるべきなのだ。