2014年2月14日から山梨県は記録的な大雪に見舞われた。まさか5日間も帰れないとは――。だが大月駅の松永駅長は5日間、乗客と部下のため駅に立ち続けた。勤続38年目。未経験の大雪にも、たじろがない。「鉄道人」の仕事ぶりが、周囲の心を打った──。
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2014年3月31日号)の記事を再編集したものです。肩書きなどは掲載当時のままです。
天気予報は大外れ、取り残された乗客
千切られた大学ノートにマジックで書かれた大きな文字が躍る。
<除雪 ありがとうございます!!>
「私たちの宝物です」とJR中央本線大月駅の駅長・松永弘司はその紙を手に取って続けた。「駅員が雪かきをしている最中に列車のなかの女性が、我々に見えるよう窓に掲げてくれていました。みな感激していました。お客さまのご理解、そして行政や地元の方々の協力があったからこそ、我々は、あの120時間を乗り越えることができたんです」。
2014年2月14日から山梨県は記録的な大雪に見舞われた。大月市の積雪は120センチを超え、甲府市や富士河口湖町では観測史上最大の積雪を記録。高尾駅~小淵沢駅間は運転見合わせ。動けない列車のなかで最長4泊した乗客もいた。
「まさか5日間も帰れないとは思いもしなかった」と松永は振り返る。
2月14日朝。粉雪が舞っていた。
「20~30センチは降るかな。今日は帰れないと思う」と妻に声をかけた松永は、いつも通りJR塩山駅7時5分発の上り列車に合わせて家を出た。1週間前、大月は約60センチの積雪があった。だが天気予報によれば、それよりも積雪は少なく、午後が降雪のピークで、夕方にはやむ見込みだという。松永は最悪の事態を想定して2泊分の着替えを準備した。
「雪や台風などで駅に泊まり込むのは鉄道マンとしては当たり前ですから、特別な気持ちはありませんでした」(松永)
万全の態勢を整えていた。大月駅は普段7人ほどで業務をこなしている。前日、4人には出勤を13時に遅らせる「繰り下げ日勤」の指示を出した。午後は雪かきなどで人手が必要となる。その数時間が勝負どころだ、と松永は見ていた。