【高橋】じゃあ『宇宙兄弟』の楽しみ方がコミュニティで盛り上がる場合って、二次創作ではなく純粋に「どこそこのエピソードが好き」とかいう感じなんですか。
「当事者である」という感覚がファンを増やす
【佐渡島】そうです。誰が好きだとか、作者の小山宙哉さんの細かい遊びに気づけるかとか。いま『宇宙兄弟』のコミュニティでやろうとしているのは、全員が自分の夢を主人公・六太(むった)の努力に例えてしゃべれるようにすることなんです。「六太はこう努力したけど、私はこう努力してる」みたいにみんなの前でしゃべると、アドバイスをくれたり、応援してくれたりするような。
【高橋】なるほど、自分自身のコンテンツ化だ。
【佐渡島】ええ。世の中の人はみんな自分をコンテンツ化したいんですよね。家族と一緒にいて落ち着くのは、家族の中では自分が最強のコンテンツでいられるからでしょう。でも、外に出ると、「自分に興味を持つ人なんて、そんなにいない」という気持ちにさせられる。
【高橋】「当事者である」という感覚ですね。
【佐渡島】「ジャンプ」が強いのも、「余白」に加えて、「参加型」という構造をもっていたからだと思います。読者アンケートの結果で連載陣を入れ替えていきますし、人気投票で特定のキャラクターが上位に入れば、物語にもそのキャラが出てくるようになる。さらに少年誌では「ジャンプ」だけが「ジャンプフェスタ」というイベントを1999年から毎年開催しています。最近はネット企業がオフラインのイベントに力を入れていますが、「ジャンプ」はそれをずっと前から実践していたんです。
インスタグラムとツイッターの決定的な違い
【高橋】僕が知る限り、玩具クリエイターや玩具メーカーの社員で、自分のコミュニティを持っていて、それを活用して商品を売っていく例は聞いたことがないですね。そういうことをやらなければいけない時代なんですか。
【佐渡島】やらなければいけないというよりは、できるようになった、ということなんですよ。最初に注目されたのはツイッターでした。でもツイッターは、言語による情報伝達のツールじゃないですか。だれもが文章を書くのが得意なわけではありません。
それに対して、インスタは写真一枚で情報伝達ができるようになりました。モデルやカメラマン、デザイナーは、ツイッターはしんどかったけど、インスタはうまく使いこなしていますよね。
【高橋】モデルやカメラマン、デザイナー以外で、インスタをうまく使っているケースってありますか。
【佐渡島】まだあまり参考になるものがないんですよ。だからこそ、その余白を埋めるクリエイターが出現したら、世界的にフォロワーがついてくるはず。これは未開の地だと思います。高橋さんにはぜひインスタを始めてほしいと思います。
【高橋】つくづく、余白って使いどころですね。僕も、いろいろ実験してみたくなりました。
クリエイター
1979年生まれ。2004年東北大学大学院情報科学研究科修了、バンダイに入社。「∞(むげん)プチプチ」など、バラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2014年に退社し、株式会社ウサギ代表取締役に。近著に『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』(あさ出版)がある。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者
1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、などの編集を担当。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。近著に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ』(幻冬舎)がある。