新しいタイプの「女装バー」が人気だ。東京・池袋に誕生した店のコンセプトは「呪いにかけられて女の子になってしまった」というもの。女性のようにメイクをして、ドレスで着飾ってはいるが、その中身は女性を恋愛対象にする男性だ。なぜ女性たちは「女装男子」に惹かれるのか――。
代表の花乃こゆきさんは「アメリカ帰りのシティーボーイ」(「まほうにかけられて」ウェブページより)

メイクしドレスを着る男たちとのチェキ撮影は1枚700円

池袋にある、客が20人ほど入れば満員となるバー。カウンターの中にいる数人の男性たちが、女性客と楽しそうに話し込んでいる。彼らと一緒に1枚700円の「チェキ」を撮る客もいる。いわゆる「イケメンバー」ではしばしば見られる光景だが、この店には大きな違いがある。男性たちは皆、女装をしているのだ。

▼「呪いにかけられ女の子になった男の子たち」に会いたい女性客

このバーは、女性向けのアニメグッズや同人誌ショップが多い「池袋乙女ロード」の一角にある「まほうにかけられて」。地下に降り、店の扉を開くと、そこには女性と見まごうほどのかわいらしい女装キャストたちがいて、「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。

この店のコンセプトは「呪いにかけられて女の子になってしまった男の子たち」というもの。2016年8月にオープンし、今では10人ほどのキャストが在籍している。最近は客席がいっぱいになることもしょっちゅうだという。

チャージは1時間800円。ドリンクとフードは500円から。メニューの中には「飲むと3分だけ男に戻るドリンク」「3分だけさらに女っぽくなるドリンク」などのオリジナルアイテムがあり、それをお目当てのキャストに飲ませると、ショーアップした彼らの姿を楽しめことができる。また「2時間飲み放題+フード3品+デザート」という「魔法の女子会プラン」(3500円)もある。

代表の花乃こゆきさんはアメリカの大学でカジノ学を専攻したアクティブな人である。

花乃さん自身も女装をしている。女装を始めたきっかけは、小柄でかわいらしい顔立ちの彼がなんとかしてアメリカで女性と親しくなるための作戦だったという。女装をして女性が大勢集まる場所に行き「実は自分は男性なのだけど、女の子に憧れているんだ」などと打ち明けると、彼女らは親身になって話を聞いてくれ、仲良くなれたのだそうだ。

▼江戸時代も女装男子に女性が胸を焦がした

店長のしのんさんも同様で、以前はモテなかったが、イベントで女装をしたら女性たちから「かわいい」などと話しかけられ、この姿ならイケる、と目覚めたのだという。色白で筋骨隆々としていないタイプの男性であれば、女性の格好をすると美人に化ける可能性があるそうだ。

女装をする男性に群がる女性をおかしな現象と見る向きも多いだろう。だが、見目麗しい女装に女性が胸を焦がす姿は、今に始まったことではない。

江戸時代、歌舞伎の若手役者らは、大店の後家などの裕福な女性客にかわいがられていて「役者買い」という風習もあった。大枚をはたけば、彼らを茶屋や自宅に呼ぶことができたようだ。

歌舞伎の代表的な演目のひとつが「女形」だ。美女を演じる男に女性が夢中になる姿はこの頃から見受けられていた。前述のこゆきさんが女装男子のバーを開こうと思いついたのも、今でも女形を演じる役者さんに女性ファンが多く付き、大盤振る舞いをする人もいると聞いたことがヒントとなったのだという。