「あの時すでに医師の認知症の診断はくだっていた」

裁判になった場合、公正証書遺言を持つほうが圧倒的に強い。訴訟を起こす側は「あの時点では、医師の認知症の診断はくだっていた」と、医師の診断記録などをもとに遺言の無効を訴えていくわけだ。裁判では、遺言作成当時の年齢や病状、遺言してから死亡するまでの間隔などが考慮要素となる。もっとも、すでに遺言者が亡くなっていることもあり、公証人への尋問だけが決定的に重要になるのだが、公証人はまず遺言能力がなかったとはいわないだろう。

もともと、遺言者の財産は個人のものだ。その意味でも故人の意思が尊重されるのが当然ともいえよう。それが不満なら「遺留分」の請求ができる。相続人としての子供の遺留分は4分の1だが、子供が複数なら、それを分け合うしかない。もちろん、公正証書遺言を作成したあとでも、遺言人を取り巻く生活環境が変化することも考えられる。その場合は「撤回」といって、新たに前の遺言と矛盾する内容の公正証書遺言あるいは自筆証書遺言をつくれば、そちらが優先される。

長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
弁護士・税理士
東京永田町法律事務所代表。早稲田大学卒業後、朝日新聞記者を経て司法試験に合格。大手渉外法律事務所や外資法律事務所を経て独立。著書は『磯野家の相続』『モメない相続』など多数。
【関連記事】
"跡目争い"が起きるほど神社が儲かるワケ
「裏切られた愛人の子」が相続できたワケ
実家を処分する前に考えるべき相続税対策
弁護士が教える、頼れる弁護士の見つけ方
資産家老人をカモにする「後妻業」の手口
(構成=岡村繁雄)