「電車でイヤホン」が耳に大ダメージを与える理由

騒音性難聴の1つである「ヘッドホン(イヤホン)難聴」も現代の難聴の代表例だ。イヤホンを使って音楽を聴く環境や器具の種類にも着目すべきと中川氏は解説する。

聴力を守るため、WHO(世界保健機関)はヘッドホン、イヤホンの使用を1日1時間未満にするようすすめている。(PIXTA=写真)

「通勤電車内の騒音は、70から80デシベルぐらいとされています。そのなかで楽しく音楽を聴こうとすると、自ずとそれよりも大きい音量になります。また、耳に掛けるタイプなどゆるめのイヤホンで聴くと、電車の音が耳とイヤホンの隙間から入ってきますよね。その分、さらに音量を上げることになります。通勤中に電車内で音楽を聴いているだけで、板金工場や工事現場で働いた人と同じくらいのダメージを受けることになるのです。どうしても移動中に音楽を聴きたければ、ノイズキャンセリング機能があるものを使って耳への負担を抑えることが大切です」

耳の老化は、自覚しにくいことも特徴の1つだ。難聴は基本的には徐々に進行していくため、無意識のうちに聞き取りにくい状態に慣れてしまい、衰えに気付きにくいのだ。突発性難聴のようなタイプはすぐに異変に気が付くことができるが、一般的には、自覚症状が表れたときには重度の難聴になっている可能性が高い。

一番の問題は、コミュニケーションのトラブル

「耳鳴り」が気になり始めたら、難聴がかなり悪化しているサイン。雑音下での聞き取りの悪さも自覚するようになったら、すでに重症だ。

「ひそひそ話が聞き取りづらく、サ行カ行タ行ハ行の音を聞き間違えるようになってきたら、補聴器が必要なレベルです。サトウさんとカトウさん、シブヤとヒビヤの区別がつかないなどが思い当たれば間違いなく難聴の状態です」

難聴を放置しておくことによる一番の問題は、コミュニケーションのトラブルだ。

「聞き取りが困難になると、人と話すのが億劫になります。あるいは、無意識に声が大きくなり、『場の空気を読めない人』と厄介者扱いされてしまう場合もあります。会話の不足、仕事の喪失などが重なると、難聴者はそうでない人よりもうつ状態や自殺に至るケースが多いとされています」

家族間のコミュニケーションが少ないことも、難聴悪化の一因になる。

「帰宅後、テレビをつけて家族から話しかけられても『疲れているから』とシャットアウト。それでは、本人も周囲も、難聴に気付けません。家族間で難聴を防ぐには、ひそひそ話ができるくらいの距離感にしておくことです」