加齢が引き起こす体の不調。放置していれば、取り返しのつかない事態を招くこともある。「プレジデント」(2018年1月1日号)より、9つの部位別に、名医による万全の予防策を紹介しよう。第3回のテーマは「腰」――。

腰痛の85%は原因の特定ができない

年齢を問わず、腰痛に悩まされる人は少なくありません。腰痛を大きく分けると、突然激しい痛みが走る「急性腰痛」と、3カ月以上痛みが続く「慢性腰痛」があり、両方とも、原因が特定できなかったり、複数の要因が絡み合っていることが多くあります。

仕事の合間にできる骨盤運動 
骨盤を動かすと同時に、腹筋と背筋に刺激を与える運動。腰に手をあてて押し、骨盤を前にゆっくりと押し出す。「痛気持ちいい」と感じるところで止めて、またゆっくり戻す。お尻をきゅっと締めるように。1日1回でもいいので、5分ほど行う。

腰痛の人の85%が原因の特定できない「非特異的腰痛」です。医師から「坐骨神経痛」「腰痛症」と診断されたら、原因となる病気が特定できていないと考えていいでしょう。非特異的腰痛のうち、約3分の1の人が、心理・社会的原因、つまり「精神的なストレス、不安、うつ」が加わった「非器質性疼痛(とうつう)」と考えられます。たとえば、急性腰痛の1つである「ぎっくり腰」は、腰椎を支える椎間関節が少しずれてしまっている状態を指しますが、その原因には「心理的要因」が関与している場合もあります。

痛みには、体の一部が損傷し、炎症によって痛みを感じる「侵害受容性疼痛」、神経の働きが悪くなって起こる「神経障害性疼痛」、心理的要因による「非器質性疼痛」があり、腰痛はこれのどれか1つではなく、絡み合って起こることが多いのです。慢性腰痛の1つ「椎間板ヘルニア」の人でも「非器質性疼痛」が主な原因の場合もあり、椎間板ヘルニア自体が腰痛の原因ではない場合も少なくありません。

痛みを抑制する脳の機能が低下する

ではストレスが原因というなら、この腰の痛みは「気のせい」かといえば、そうではありません。腰痛は確かに存在します。痛みを感じる人は、「心理・社会的原因」である「精神的なストレス、不安、うつ」にずっとさらされていることで、痛みが何倍にも強くなって出てしまっている可能性があるのです。

ほとんどの動物は、ある一定の姿勢をとらなければいけない場合に、無意識のうちに痛みを抑制する「下行性疼痛抑制系」という体内システムが働きます。たとえば、交通事故でけがを負った直後の人はあまり痛みを感じないのですが、病院に着いた途端に激痛が走ります。

痛みを感じたとき、脳内の腹側被蓋野から神経伝達物質であるドーパミンが大量に出ます。すると脳の側坐核でμ-オピオイドという脳内麻薬が大量に産出され、下行性疼痛抑制系が活発に働き出して、「いま、痛いのだけど、痛くない」としてしまうのです。

ところが、ストレスや不安やうつにさらされていると、このシステムが正常に働かなくなります。そのため、腰の治療を一生懸命やっても、本来の痛みを抑制する脳の機能が低下しているので、それを戻してあげないと腰の痛みがよくならないのです。