「たとえば繊維や食料の案件で、担当のプロジェクトマネジャーより僕のほうが詳しくない。だから、担当部門が巧みに仕上げてきたプレゼン用の書類を見ることより、その人間の熱意、本気度を見ることのほうが大切なのです」(小林社長)
趣味は「人と話すこと」という“人間好き”社長らしい判断基準だ。
社内カンパニー制を採っている伊藤忠は、「宇宙」から「生活資材」まで7つの分野のカンパニーを抱え、さらにグループ全体では連結子会社の数が414社にのぼる(08年3月末現在)。
しかも、その連結子会社の総数は毎年ほぼ一定でも中身は常に入れ替わっている。毎年60~70社の子会社が新しく生まれて連結に加わり、一方、同程度の数の子会社が撤退・再編等で姿を消し連結から外れているのだ。常に新しい事業に乗り出し、その一方で軌道に乗らなかった事業からは手をひいている。
「ほぼ1週間に1社つくり、1社消えている計算ですね」と小林社長は言う。
総合商社は多角的な事業展開が持ち味だ。そのなかで、経営トップはリスクを背負いつつ、新規案件に対する「ゴー」か「ノー」かの判断を次々に迫られる。「スピーディな決断のためにも、書類ではなく、目を見て熱意を確かめることが一番なのです」と明言する小林社長。
だから、社内には次のような“伝説”さえできあがっているほどだ。
「プレゼン中、提案者の説明に興味を失った瞬間、社長は(相手の目を見るのをやめて)急に脇に置いてある書類を読みだす」のだとか。その様子を見て、提案者は諦めてすごすご部屋を出る。