実は間違いだった「AIの申し子」

今、プロ棋士や棋士を目指す者に必須の学習ツールがある。それがソフトウエア(AI)だ。実際にソフトを相手に対戦することもあるが、最近では自分の指した手が正しかったかどうかソフトの判断を聞くのが一般的。プロ棋士もソフトを使って学ぶ手法がここ数年で完全に定着し、将棋を勉強する小学生が対局後にスマホで検証する光景も珍しくない。

「プロを目指す機関である奨励会の会員や、強くなることに敏感なアマチュアの強豪たちは、数年前からソフトを使って勉強しています。でも、ソフトを使った全員が強くなったわけではない。一方、AIの申し子のように言われることもある藤井四段は、ソフトをほとんど使わずに強くなりました」(前出・鈴木氏)

師匠の方針もあって藤井四段はプロレベルの実力を身につけるまで、ソフトにふれなかった。それまでの勉強法は江戸時代から続いてきた「詰将棋を解く」「実戦を指す」「棋譜を並べる」(記録された対局を将棋盤で再現する)の3つ。中でものめりこんだのが、詰将棋だ。

「詰将棋は強くなるためには欠かせません。しかしそれだけでプロレベルになったケースはほとんどない。詰将棋を解くのは筋トレのようなもので、基礎体力の補強にはなるけど、筋トレだけをしている野球チームが強くならないように、必ずしも勝敗には直結しない。『詰将棋に時間を費やす間、ライバルたちは自分に勝つための戦略を練っているかもしれない。地道に基礎体力づくりしている場合じゃないぞ』というのが多くの棋士の実感です」(同)

ところが、藤井四段の場合は生まれつき詰将棋が大好きで、ひたすら基礎体力を育んでいった。

「詰将棋で身につけた力を土台にして、さらに自分を成長させる勉強法を藤井四段はいろいろ考えました。ネットで対局し、研究会を続け、ソフトもプロ三段になってから使い始めた。他の棋士よりも基礎的な実力がついていたから、より急激に伸びることができたんです」(同)